くるくると巻かれる包帯をじっと見つめる。白い色は好きじゃない。黒い色が一番自分にとって慣れた色だし、次に馴染んでいるのが赤い色。光を反射して光る色はまぶしくて嫌になる。
「次こんな怪我してきたら殺すぞ」
「ひぇえ……知らないで、ったぁ!」
 巻き終わりにばしんと傷口を叩かれて、思わず情けない悲鳴を上げる。毎度ならもうちょっと相手にも余裕があるのだけど、先の衝突は常に増してこちらの被害が大きかった。何だかんだで優しい彼は、きっと色んな所を走り回って色んな人を治療していたのだろう。そのせいで隠れていたにも関わらず見つかってしまった訳だけど。
 ざっくりと切られた右腕の傷は治療されたけれど、もうひとつ、左脚の怪我にはまだ気付かれていない。このまま気付かれないといいなぁとあぐらをかいて、上に上着をかぶせてみたりして、何となく隠してみた。
 普段ならばすぐに気付かれるのだけど、鼻も利かないようなこの現状に、周りの雰囲気もある。しばらく自分が立ち上がらなかったところで不審に思われることもないだろうと。険しい顔をした彼にあえてゆるい声音で告げる。
「ここから西に少し行った所と、あと東側の建物の中、結構被害が出てると思うのでー。ボクよかそちらへお願いします」
「手前はどうすんだ」
「もう少し休んだら勝手に帰りますんでー」
 ひらひらと手を振れば、彼は一言「ちゃんと帰れよ」と残して踵を返した。
 彼の姿が見えなくなった所で深く息を吐く。右腕の包帯をちらりと見遣ると、じわりと滲む赤色。痛みに強くて良かったと思う。
 立ち上がれるかと力を込めようとした左脚の感覚がないことに今更気付く。これは案外まずいかもしれないとぼんやり考えて、少しおかしな気持ちになった。



 いつのまにか寝てしまっていたらしい。随分と暗くなった辺りは、静かさを取り戻して少し肌寒い。
「オイ馬鹿何やってんだ」
「あは、寝てましたー」
 上から降って来た声にへらりと返すと、右腕を掴まれて立ち上がるように促される。勿論時間をおいた所で勝手に治っているわけもなく、ぐらりと傾いだ身体を他人事に思いながら、ああ怒られるな、と。
「……何で隠した」
 覚悟した怒声ではなく、噛み殺したような声音。そういう怒られ方は苦手だ。
「だって、」
「だってじゃねェよ馬鹿か!巫山戯んな……!」
 見上げれば、怪我をした自分よりも余程苦しそうな彼の顔。どうしてこの人はこんなに誰にでも優しく出来るのだろうか。
「……、」
 何かを言おうと開いた口から言葉がこぼれる前に、ふわりと意識が浮かぶ。
 遠くなる音にああ言えなかったと少し後悔して、少し安堵した。





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