桜が、ゆらゆらと目の前をちらつく。小学校の卒業式はあっという間で、すぐに中学の入学式がやってきた。こんな田舎だから殆どの子はここの中学で、今日は教科書販売なのだが保護者が付き添いの生徒もいたので、すごく混んでいた。

「・・・・・・・・、うえ・・」

そんな中、私は見事にこの人混みに酔って、隅の方で桜の木に寄り掛かっていた。

「・・・・気持ち悪・・・、」

これでも、子供の頃よりかは幾分かマシになった方だ。昔から私はあまり人混みは得意な方ではなかったから。・・・・あー、あと貰わないといけないのは、美術セットだっけ?教科書はなんとか買えた。それと辞書も。あとはクロッキー帳などだろう。・・・・・・どこに売ってるんだろう。人混みでよく見えない。どうしようかな・・・

「・・・・・・大丈夫ッスか?」
「・・・・!?・・、」

びっくりして、ついビクッと肩が震えた。
目の前には、知らない男の子。・・・誰?

「・・・・っだ、いじょう、ぶ。ごめんなさい、ありがと・・・・」
「・・・・・・あと買ってないの、美術セットだけ?」
「・・・・・・う、うん、そうだけど・・・?」
「買ってくる。確認書貸して」
「・・・・・・え!?」

いきなりのことで、頭が追いつかない。教科書などはあらかじめお金は振り込んでいて、確認書を渡すだけだからこの男の子は別にスリとかではないだろう。きっと、優しい人で、気遣ってくれただけ。
だけど、流石に・・・・・、

「わ、悪いからいいです。どうもありがとう。気をつかわせちゃって、ごめんなさい・・・・・・」

なるべく人当たり良く、愛想よく笑って断った。初対面でこんなに気遣ってもらうのは、なんだか遠慮したいというか悪い気がする。

「別に、悪いとか気にしなくていーよ。そんなに謝られると反対にこっちが悪いことした気分になって申し訳なくなってくる。」

・・・苦笑されてここまで言われたら、ノーとは言えない。

「・・・・・・・・・、・・・・・それじゃあ、お願い、します・・・・」

そう言って自分の手元にある確認書を渡せば、話は早かった。


***********


それにしてもなかなかの美形だったなぁ。爽やかな感じで。モテるんだろうな。足も速いし・・・もう見えない。

「・・・・・・、・・はー・・・」

深呼吸をして上を見上げればまだ少し残っている桜の花が目についた。・・・あと二週間もつか持たないかぐらいかな。地方によって桜が咲くのは遅かったり早かったりするが、ここは遅いのだろうか?たしか小学校の頃、都会の方では入学式にはもうすでにほぼ散っていたような気がする。まぁ、でもどちらにせよ、この日本の花はいつ見てもとにかく綺麗だ。
淡い、桃色の華が───・・・・・


「・・・・・・・・・・・、・・・・・・」


桜を上へ上と見てゆけば、場所違いのあかが目についた。

朱い、紅い、
それこそ、桜の花のように淡くはない、混じり気のない真っ直ぐな赤。コントラストが、綺麗だなぁ。あぁ言った類の者を妖、または化け物と言い、彼等は普通の人には見えない。そのことは大分前から重々理解している。だが、やはりわかっていてもたまに目を惹いてしまうのだ。・・・なんの妖怪だろう?それか神様かな。桜の・・・宿り神ってやつかもしれない


「───────い」

・・・・・・・あぁ、そろそろ逸らさないと。目つけられたら大変───

「おい!」
「、!?・・・・・え」

目の前を見れば、さっきの少年が焦った様子で私を見ていた。・・・しまった。気がつかなかった。

「・・・・ご、めんなさい。呼んでた?」
「あぁ・・・・。具合、大丈夫か?」
「あ、・・・・・うん。さっき、よりは。」

・・・・・・・・今さっきのは、やっぱり神様だったのかもしれない。具合が、いつの間にかこんなに早く治るなんてありえない。健康とかそういう神様なのだろうか?

「そっか。よかった。
あ、それじゃ、俺あとジャージがあるから。」
「うん、ありがとう。すごく助かった。・・・・本当に、ありがとう。」
「おう。具合も良くなったみたいだしよかったよ。
同じクラスだったら・・・・いや同じクラスじゃなくてもきっとまた会うよな。」
「?うん、多分」
「それじゃ、よろしくな。俺は春川晴。名前聞いてもいいか?」
「あ、・・・・うん。よろしく。私は、みょうじなまえ。」
「みょうじ、な。わかった。よろしく」


咲き、芽吹く中、結ぶ。
(その一週間後、窓の外に桜が舞い散る中、)
(君と二人同じ教室でまた出会う。)

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