オムライス王国

「ひのきくーん」

「待ってろ」

「まてなーい」

「ガキか」

「まだ子供。未成年だもん
ていうか、何でもいいから早く」

「ったく・・・・、よっ、と
デミグラ?ケチャップ?」

「ケチャップ!」



私の家の隣人さん、幼なじみの檜くんは只今修行中の見習いシェフで、仕事で忙しい両親のかわりによく夜ごはんを作ってくれる。

ちなみに今年で21歳。



「いただきまーすっ」

「おー、あ、先食べてて俺トイレ」
「えー?長い?」

「大だから長い」

「今からごはん食べる人になんて事を言うんだ」

「いや、聞いたのお前」



そう言えば檜くんは宣言通りトイレへと向かった。
・・・まぁ、とにかく食べるか。

檜くんのオムライスはすごい。半分はデミグラでもう半分は自家製トマトソースだったり本当に豪華。ていうか美味しい。
今日はトマトソースとケチャップの組み合わせだ。
ご丁寧に旗までつけてくれてる。いつもつけてくれてるけど、どこの国?ていうかすごく邪魔。



「・・・・オムライス王国ー、なんちて」


小さいころからオムライス作る度につけてくれてたけど、いつもなんだか取る気が失せて旗に差し掛かるまでは取らない。
まぁ今となっては癖だし、あまり気にしてないけど。オムライスがうまけりゃなんでもいい。


「オムライス王国にスプーンをにゅうとーうっ」


いつものように、スプーンをオムライスに入刀した。



───そう、いつものように。




瞬きをした瞬間に、


「・・・・・・・・は」


景色は音も立てずに変わることなんて、ありえない。ありえないんだ。・・・ありえない筈なのに・・・何だコレ。こんなの・・・何かの夢だろ。


片手にはスプーン。
トマトソースが付いてる。

椅子はない。机もない。オムライスがない。

私は、地べたに座り込んでいた。


「・・・・・・・・え、ええぇ・・」



(ボタリ、)
(トマトソースが、)
(スプーンから滑りこむようにして、地面に落ちた)