「はるちゃんおはよー」
「おはよ、みょうじ」

ボーッと空を眺めているとガラッとドアが開き、振り向けば友達のハルちゃん。いつも通り挨拶をすれば鞄を置いて彼はこちらに来た

「今日プリントやってきた?俺昨日急いでやってさー」
「・・・・・あれ、今日ってプリント提出日?」
「あぁ、・・・・忘れてたのか?」
「・・・・・・うん、」

・・・・しまった。嫌なこと思い出したなぁ。どうしよう。しかも今日は日にち的に先生に当てられる。

「・・・・・・俺の見る?」
「!見る。写させてっ」
「あぁ、・・・・・ハイ。笹田にはバレないようにな」
「うん、ありがとう。すごく助かる」

ハルちゃんがバックから取り出したテキスト受け取り、ページを捲ろうとした。だが正に噂をすれば。ガラリとまたドアが空いたので、反射的に見れば、今まさに話していた彼女がいた。

「おはよ」
「!・・おはよー」
「はよ、笹田。」

私はすぐ様はるちゃんから借りたテキストを机に入れ、話題を変えた。最初は今日の時間割のこと。それからもう夏だねーなんていうとくに続きがない話を繰り返していた。
そして、ふとこの前話していた地区企画のことが気になったので、丁度席替えの話が終わった所で切り出してみることにした。

「・・・・あ、そういえば、地区企画のアレ、肝試しのやつどうなった?」
「それがまだ決まってないんだよな。・・・・悪い、せっかくみょうじに参加してもらったのに」
「あー・・・・、まぁ何とかなるよ」
「それにしても意外ね、なまえがお化け苦手なんて。ホラー映画とか普通に見るから平気なのかと思ってた。」
「・・・あー、テレビとか見るのはいいんだけどねー」
「そうなの?・・・・ってあ、私先生に呼ばれてるんだった。
なんか転校の件らしくって。行ってくるわね」
「いってらっしゃい」
「いってら」

二人で彼女を見送れば私達はお互いに見合った。

「・・・なぁ、笹田、大丈夫か?・・・その、義父さんの事とか・・・・・」
「うん・・・・、まぁ私達が気にしても意味ないんだけどさ・・聞く事ぐらいしかできないよね・・・」

ハァ、と溜息が零れる。
彼女は、笹田純。正義感が強くてたまに真面目すぎたりする面もあるが、周りに気配れる良い子だ。私達三人は中学が一緒で、三年間奇跡的に同じクラスだったこともあり、ほとんどいつも三人一緒だった。

「・・・・・・平気か?・・・・その、お前こういうの苦手なんだろ?」
「!えー・・あ、っと・・・・やっぱり、最後だから力になりたいし、・・まぁ、多分なんとかなるし?あーでもハルちゃんか純と一緒がいいなー」
「そうだな。知らない奴より知ってる奴の方が気が楽だ」
「うん。メンバー集め、頑張ってね?」
「おう。・・・今漢字やった方がいいんじゃないか?」
「!そうだね」
「頑張れ。・・・・あ、北本達だ」


───ドクン、


「はよー。北本、人数、どうなってる?」
「おはよ。
まだ二人だけだ。すまん」
「そかー、ま、仕方ないべ」
「ん?・・・・あーっ!やべ!今日テストだ!
みょうじ、それ誰の?」
「・・っえ、あ、はるちゃんのだよ」
「はる!みょうじが終わったら貸して!」
「お前もか・・・・・いいぞ」
「、ぅあ!?」


────ガタッ


「?
どうした?夏目、お前も忘れたのか?」
「!・・・・・あ、あぁ・・」

ふと、彼の視線の先を気になってちらりと私は見てしまった。

「・・・・・!、」
「?・・・・・みょうじ?」

しまった。びっくりして私も肩が強張った。もう何やってんだ。

「・・・・・・なぁに、ハルちゃん」
「いや、・・・・気のせいだ」
「何が?気になるんだけど」
「気にすんな。夏目、お前も見るか?」
「あっ・・・あぁ、すまない。ありがとう・・・・」


───私と彼しか、見えない。


「夏目様、夏目様、名前を返して下さいませ、」


────これで、何回だろう?


「友人帳の夏目様、どうか、私に」


───友人帳、

───名前、


妖怪が、噂をしていたのを聞いた



「夏目レイコの孫で、祖母に替わって名前を返してるんだとさ」
「祖母が奪ったものを孫が?
どうしてまたそんな」
「知らないさ。ただ、すごく強いんだとさ
用心棒にぶたまんじゅうを連れているらしい」




彼が、こちらに来た日
心臓がこれでもかと脈打ち、すごく慌てた。


だけど──


「・・・・・・・・・・」


多分、彼は、私を覚えていない。



(私は覚えている。)
(自分と同じ彼を。)


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