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何で、私は、この男を最後まで否定しなかったのだろう。
「い、・・・、」
「大人しく、しててよ、ね?」
元から、この男の笑顔はどこか胡散臭かった。
けど、母さんが選んだ相手だったし私は母さんの嬉しそうな笑顔を壊したくはなかった。
だから、同棲する事にも賛成したんだ。
だけど、一人暮らしをすると私が言った時のこの男の笑顔がどこか引っ掛かっていたのだ。
───少しずつでいいから慣れていってほしいし慣れていきたい、そう言った、この男。
今私の上に乗っている、この男の顔が、
端から見たら優しいとされるこの笑顔が、
何やら気持ち悪く感じていた。
とにかく気のせいだと、その時は思いこませていたのだが。
「っ、ざけ、・・んな!」
「!」
力の限りを振り絞ってコイツを押し返した。先程舐められた首が気持ち悪い。
「・・・・・・、・・・・・・っ」
・・・・・・何だ、ここは、私の家じゃないのだろうか?前まであった安心感はどこに?
ここは、ここは、
「・・出て、っけ」
止めろ、これ以上、汚すな。
私の安息の場所を。
私の、大切な、大切な、
「だーいじょうぶだーって!
頼子ちゃんはもうここには帰ってこないから!」
──────より、こ。
それは、私の、小さい頃からの支えであった、たった一人の家族。
大切な、大切な、
「、な、にっしたの、」
何を、言っている?
「ははっ、別に、そんな大したことじゃないって!
ここにはもう来れないようにしただけ!」
─────ひゅ、と喉の奥で何かが泣いた。
気がつけば、手には、ナイフを持っていた。
テーブルにあった、朝使った、ナイフ。朝まで、母さんと、ご飯、
「あ゛あああああ゛ぁああああああああああああ!!!!!!!」
────鈍い、感触。目の前の男の怯えた顔。
───死にたくない、と叫ぶ声。
(私の記憶はそこまで。)
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