欠伸を一つ漏らしてぼーっと窓の外を眺めれば、少し空が夕方の色に染まっていた。

「・・・・・・・・・、」

委員会の都合上5時までいなくてはならないので私は芥川集を読んでいた。そしたら、いつのまにかこんなにも人がいなくなっていてびっくりした。もうそろそろ5時か・・・。うわあ、早いなぁ・・・私が見えている範囲だと、もう人は一人となっている。眼鏡の、長身の男子だ。

「あの、」
「はい」

声を掛けられた方へと視線を移せば、目の前の彼は背が高いせいか少し首がうってなった。それとも、随分と本へと視線を向けていたからか。私はだらけていた姿勢を直して返却ですか?と彼に聞くと借りたいんですがと帰ってきたので彼が持っている本を受け取り、バーコードをチェックした。

「では、二週間後までに返してくださいね」
「わかりました。・・・・あの、」
「はい」
「いつも、兄がお世話になってます」

・・・・・あに・・・?
私の知り合いで、お兄さん?・・・・たしか、この人って、同じ学年の・・・・ああ、奥村ってもしかして、

「・・・・・あれ、もしかして・・・奥村くんの、・・・・弟さん?」
「あ、はい。弟の雪男です」

先程本をチェックする時に見た名前でピンときた。・・・・な、なるほど。弟の方が兄のようだという噂は本当だったようだ

「・・・・そっかあ、弟さんかー」
「兄から、高梨さんの事を何度かお聞きしていて、」
「あ、本当?いきなりだけど奥村くん、・・・あっお兄さんね。お兄さんってさー料理上手だよねー、食事はお兄さんが担当してるの?」
「はい。唯一兄が自慢できる特技です。」
「ぶは、辛辣!」
「手先は器用なんですが・・・・たまに力加減が・・・」
「へぇ・・・なんかわかる気がする」

弟さんはとても大人びていて話しやすかった。お兄さんも話しやすいけれども、何だろうな、聞き上手、って言えばいいのかな。

「・・・あ、ごめん、話しこんじゃった」
「気にしないで。高梨さんと一度話してみたいと思ってたから」
「私と?」

うん、と笑う弟くんは天然なのだろうかと思ったが、すぐ後に兄さんが楽しそうに話すからと言った。
・・・何だ、私が勘違いしただけか。恥ずかしい。・・・・あれ、ていうか楽しそう?何だそれは。私達、そんなネタになるようなこと話したっけ?・・・・まぁ、いっか。とりあえず、

「お兄さんに、今度またお菓子作ってって言っといて。」
「・・・・・・・・ぷっ・・ははっ!」
「え?」

「いや、その、こっちの話」と言いながら状況を掴めてない私を見てまた弟くんは笑った。えええ?

「ちょっと!何!気になる!教えてよっ」
「図書室は静かに。ね?」

押し黙った私を見兼ねて弟くんが去ろうとしたので、私は少し声のボリュームを下げて、待ってくださいと停止の言葉を持ち掛けた。

「それじゃあ、」

さようなら、図書委員頑張って下さいと、にこりと笑いながら弟くんはドアをパタンと閉めて去っていった。・・・・あれは天然なんかじゃない。断じて違う。
prev next
back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -