「アルギアさん、朝食ができましたよ」
「お・・・はよう、ございます・・・ナマエさん」
へにゃりと笑いながら布団から顔を出したのは半年前に身寄りも何もない私に一緒に住もうと言ってくれた、親切で、だけどたまにおっちょこちょいな優しい男性、アルギア・ビェノサである。
昨日気が付いたのだが、あれからもう半年も経っていた。この朝のやり取り、もう何回したのだろう?
「それじゃあ私、仕事に行ってきますね。皿洗いお願いします。」
「はい、気をつけてくださいね」
「・・・・・、」
いってらっしゃい、と笑顔でアルギアさんが声を掛けてくれる、この瞬間が実は一日でとても幸せを感じる時だったりする。へにゃりと笑うアルギアさんが、美味しそうに自分が作った朝食を食べてくれて、いってらっしゃいと笑顔で見送ってくれる。そんな当たり前な平穏な日々が、堪らなく、とても、幸せだなと思うのだ。
「・・・いってきます、」
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「ナマエちゃん、今日も美味しそうね」
「ありがとうございます」
作ったお惣菜などをいつも同じ場所に行ってに並べて売る。これが私の今の仕事で、我ながら自分に合っている仕事だと思う。昔から力仕事はそこまで役に立たなかったけど、よく編み物や料理に関しては村の皆の中では上の方に入っていた。
「そうね・・・・その一番右にあるヤツ貰おうかしら」
「承知しました。いつも、ありがとうございます。」
「ふふっナマエちゃんが作るものは美味しいから。ハイ、お金。」
「ありがとうございます。・・・どうぞ。明日ももしよかったら、また来てください」
「えぇ。それじゃあね。」
「はい」
あのおばさんは毎日私が作ったものを美味しいと言って買ってくれて、たまに服や髪留めをくれる優しくて気さくな人だ。今日も買ってくれたし、もしかしたら私が作るものを本当に気に入ってくれているのだろうか。・・・・だったら、嬉しいな・・・・
────ジャラ
「、!」
さっきまで、浮上していた心が、氷を食べたみたいにひんやりとして、嫌な汗が背中を伝った。
動悸がバクバクと煩い。ジャラリ、と鎖と鎖が擦れ合う金属の音がやけに響いて、頭から離れない。
「・・・・・、っは・・・・・」
彼等が通る度に、私の胸は嫌な音をいつも立てる。
いつものように喉唾を飲み込んで私は目を伏せた。
(もし、あんな未来があったのかと考えると)
(怖くて目を瞑りたくなる)