Birthday_sideS.


午前0時2分。机に置きっぱなしにしてた携帯が着信を知らせて震える。ディスプレイを確認すれば、よく知った名前がチカチカと点滅しとって一人ほくそ笑む。散々焦らして、あと1コールで留守電になる、ちゅうタイミングで通話ボタンに手をかけた。


「もしもし?」

『……………』

「おい、白石?」

通話口からはなんの返事もない。押し殺した息遣いは伝わってくるけども、何度呼び掛けても反応がないもんやから流石の俺も用ないんやったら切るでとだけ告げて電源ボタンに手をかける。ほんまに通話終了しようとするんが伝わったんか、慌てたみたいなきぬ擦れの音が電子音になって響いた。


『…今日、何日やねん』

「ああ?ちょうど15日になったばっかやなあ」

『……………』

また黙り込むし。
白石がこない拗ねる理由作ったんは俺やけど、これは流石に拗ねすぎやで。俺は物音立てんように立ち上がって、ツッカケ片手に部屋を出る。その前に、机に転がっとる紙くずをポケットに突っ込んで。繋ぎっぱなしの電話からはたまにモゴモゴと不服そうな声が聞こえるけど全然何言っとるんか伝わらん。寝静まった親起こさんようにこっそりと玄関から出て、昼間と違って肌寒い真夜中の空気に身を縮める。…なんか羽織ってこればよかったかも。またしばらく無言になっとった電話から、小さい声で名前を呼ばれる。


『名前は、昨日んこと忘れたん?』

「忘れたて何をや。昨日土曜日やから会ってへんやろ」

『せやなくて!』

次第にいらいらとした空気を纏いはじめる白石の声に、込み上げる笑いを押し殺す。ぶらぶらと歩いとったら次第に寒さも気にならんようなってきて、もう春やなあとか考えたりして。ポケットん中のカサカサって音が、恙無くこの計画が進行してることを伝えてくれる。すこぶる機嫌がいい。


『名前にだけは忘れてほしなかったのに』

「だから何をや」

『ほんまに覚えてないん…?』

通話口越しの白石の声は段々と湿っぽさを含むようなってきて、ちょうどその頃に目的地にたどり着いた。暗く寝静まった一軒家の中にひとつだけ明かりのついた部屋を見つける。カーテンがかかっとって中はよう見えへんけど、おそらくあそこに…。
適当な小石見繕って、野球部エースたる俺のこの華麗なコントロールで寸分狂わずに窓に投げ付けた。カツンッという小気味よい音が、窓のほうからと一瞬遅れて耳を押し付けた携帯から聞こえる。


『ッなんや…?』

がたがたと部屋を移動する音が聞こえて、カーテン越しに人のシルエットが現れて、ガラガラッと慌てた手つきで窓が開かれた。


「名前!?」『名前!?』

声が二重になって聞こえてくる。通話を切って、携帯をポケットに仕舞うと同時に丸めた紙玉を取り出して、これまた寸分狂わぬ最高のコントロールで白石の手元に投げ付けた。面食らったように、それでも掴み取る反射神経は流石の一言やな。紙を開いて、中を見ると同時に色素の薄い目がおおきく見開かれる。暗がりの中でもわかるほどの驚愕の表情はバッと俺のほうを向いて、次の瞬間には開けっ放した窓も放置してバタバタと部屋を出る騒音にかわる。
俺は踵をかえして帰路についた。角を曲がったあたりで玄関が開く音と名前呼ばれる声が聞こえてきて、なんちゅーか、無駄な騒音が近所迷惑やで。

ひとりほくそ笑んで、ぽっかりと月の浮かんだ空見上げる。計画は恙無く完了して、ああもうこの上なく満足や。


「指輪なんてベタやんなあ…?」

拗ねる白石見たさに誕生日すっぽかした、なんて言うたらアイツ、どんな顔するやろか。それも見てみたい気がした。

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