噎せかえるような花の香り


なんでこんなところで寝てるんだとか、お前誰だとか、そんなツッコミもぶっ飛ぶほどに気持ち良さそうな寝顔を見ているともう怒る気も失せてしまう。


時間はちょうど3時くらい。アルバイトしているカフェの方が一段落ついたから、俺がいつも丹精込めて世話してきた裏庭の花壇の様子を見にきたら、何故か近くの私立中の制服を着た少年が寝ていました。それも俺が一番気に入っているカモミールの一角で。


(いや、なんでだよ)

少年の顔に見覚えはなくて、店長の知り合いかとも思ったけどそんな話は聞いていないし、第一朝水やりに来た時はこんな少年はいなかったし、ていうか学校はどうした少年よ。とりあえず起こそうと、寝息を立てる少年のきらきらした金髪を撫でる。指通りのいい髪は天日と体温でほっこりと温かくて、なんだか羊でも撫でているような心地好さだ。
カモミールの甘い香りは眠気を誘うし、春の日差しはぽっかぽかだし、まあ眠くなるのはわからんではない。けど、この裏庭は通りに面してないし、店の中か路地抜けないと入り込めないし、そもそも外の通りも彼の学校の通学路じゃないし。


(なーんでこんなとこで寝てんだよ少年)

すべすべの頬を撫でる。カフェでアルバイトをするようになってから、水仕事ですっかり荒れてしまった俺の指では彼の頬に傷をつけてしまいそうだった。


(ていうか、無防備すぎて変な気分になっちまうわ)

いや、俺は普通に女の子好きだけど。

…でも、まだ背も低そうだし華奢だし童顔だし頬は柔らかいし普通にカワイイし、これはこれでアリなのかも、って。そんな半犯罪的な考えを頭から追いやって、少年を起こしにかかる。


「おーい少年、ここはベッドじゃねえぞー」

「んん…っ」

肩を揺さぶれば掠れた声で抵抗されて、ああもう、だから、無防備なんだってば。


(起きろよー…でないとお兄さん、犯罪の道に落っちまわあ)

暫く起きろ起きろと声を掛けながら揺さぶっていれば、ようやく少年も目が覚めたようで、億劫に薄く開かれた双眸と目が合った。ああ、やっと起きてくれた…と安心したのもつかの間。


「…いーによい…ぐう」

「おーい、ちょっとー…」

少年は俺に手を伸べたかと思えば首に腕を回して、抱きすくめるようにして引き寄せた。ちょっとちょっと、少年よ何をする。によいじゃなくて匂いだっての、…じゃなくて、寝ぼけて人を抱きしめるんじゃねえよ。



鼻先に、少し土の香りと洗剤の香りと、噎せかえるような花の香りが俺を満たした。




(これは据え膳ってことでいいんですか)

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