記憶喪失な女の子


「名前が記憶喪失てどういうことですか」

「せやから、言葉のままや」

交通事故で頭打って、命に別状はないけど、一時的に、だれのこともわからんようなっとるらしい。


部長の言葉に目の前が真っ赤に染まったような錯覚をする。どう考えても夢やろ思うけど、病院のこのくっさい消毒のニオイはいやになるほど現実で、とにかく俺は名前のあほとしか言えへんかった。


(なんやねん記憶喪失て。お前、車にあたったくらいで記憶飛ぶほど繊細ちゃうやろ)

いっつもアホみたいな顔して俺に突っかかってきてアホやしどんくさいし腹立つし言うてること意味わからんし女らしさのカケラもないしアホやし、お前みたいなトンチンカンと記憶喪失なんてドラマは似合わんのやボケ。
部長が、今なら少しだけ顔見れるそうやて言うてるけど、俺は躊躇った。今名前の顔なんか見たら殴りかかりかねん。ていうか、絶対殴る。女とか関係なく殴る。そんで、もっかい記憶飛ばしたるんや。
…俺がうだうだ迷ってるうちに部長は看護婦さんに顔見せてもらうよう頼んでて、あんた相変わらずホンマ無駄ないな。悩む間くらいくださいよ。文句言いたくなったけど、看護婦さんに開かれた病室の扉の、その奥見たら、もう、

なんも言えへんようなってもうた。


「…名前」

「………」

力なくベッドに腰掛けて窓の外ぼんやり見つめてるコイツは誰や。
声に気付いてこっち振り向いて微笑むコイツは何者や。


「こんにちは」

お前、俺にそないおしとやかに挨拶なんかしたことないやろ。
いつも女らしなれや言うてるけど、こんなんなれとはいっこも言うてへんで。


「…アホ」

殴ることも罵ることもできん俺は、その場に崩れ落ちた。

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記憶喪失少女と財前くん。
犬猿の仲でいつも喧嘩してた同級生が事故で記憶喪失になってなんや女の子っぽくなって、いつも女らしくないといってからかってたのにコレ何やねんってなる感じの…←わかりづらい
白石さんも居てますし設定的にはマネージャーとかですかね。

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