雲は白りんごは青彼女は美しい


風は、少し強めに吹いては私の髪をなぶり去って行く。眼下に広がるグラウンドでは1組と2組が合同で体育やっとって、そん中には白石も居てる。…あー、一氏と金色は相変わらずイチャイチャと目障り極まりないなあ。白石は授業が始まる前からずっと誰かを探しとって、それが誰なんかは解りきった話やけどその当人は今、こうして屋上にてサボりに勤しんでる訳で。彼女には申し訳ないけど、今はあんまり授業に出たい気分でもないしそもそも体育あんまり好きやないし、私は屋上でまったりサボりタイムと洒落込ませてもらうわ。


(っつーか、白石ってほんま色白)

やっぱり毎日ちゃんとケアしたり、日焼け止めもしっかり塗ったりしとるんやろか。数多い女子生徒の中でただ一人、一際きらきらと輝いて見える彼女はほんまに綺麗やと思う。ただ、少し沈んだ表情してんのがちょっと気掛かりで、そんな表情させてんのが私やねんなあ…とか、私が今出てったらもっと笑ってくれるんやろなあ…とか。そんなふうに思ってしまうんはちょっと自惚れすぎやろか。
柄になくにやけた口元を押さえて、よく晴れた空を見上げる。


「アレ、先客がおったと」

「…ん」

扉の開く音と声に振り返ったら、丁度屋上に出てきたって感じの格好で立ち止まっとる女子生徒が居た。癖の強い髪を風に遊ばせて、耳にピアスを光らせて、背が高くて、


(ていうか、胸でっか)

制服の上から、カーディガンの代わりに変な柄の襟の大きくあいたシャツを羽織っとって、その上からでも解るくらいのナイスバディ――って、なんや私変態みたいになっとるし。とにかく、制服の着こなしがだらし無い分余計に胸元に目が行くっちゅうか、少なくとも真面目な雰囲気の生徒ではなかった。まあ、授業中に屋上に来る時点で真面目とは程遠いのは解りきった話やけど。


「んーと、うちも一緒してよか?」

「ドーゾ」

なんや、怖い感じの子なんかと思ってたら案外人懐っこい笑顔浮かべるんやん。私のほうは相変わらずの無愛想っぷりで、なんやかえって申し訳なくなってまった。隣に来たナイスバディさんは、何が楽しいんか知らんけどやたらとにこにこしながら私に倣ってグラウンドを見下ろす。やや豊満すぎる胸が鉄柵に押し付けられて、なんかちょっと教育上よろしくないような感じになってしもてるで。ちゅーかそないぎゅうぎゅう押し付けて胸痛くないん?やっぱ巨乳は柔らかいから平気なん?…とかなんとか、少々下世話な心配しとったらいつの間にかこっちに向いとった彼女の目とバッチリ視線が合ってもうた。直前に考えとった事が考えとった事やから、なんや気まずなってしもて目を逸らす。


「変なこつば聞くばってん、」

「あ?」

「"名前ちゃん"?」

「は?」

なんでこのナイスバディさんは私の名前知っとるんやろか。彼女とは間違いなく初対面で、つかこの子喋ってんの大阪弁やないからどこ出身かの判断もつかんし、とにかく唐突に名前を呼ばれて私は硬直してもうた。


「違っとった?」

「いや、うん。合ってるけど。なんで?」

「白石が最近、よう名前ちゃん名前ちゃんち言うてるけん」

「あー、白石の友達?」

「うちもテニス部員やけん」

成る程、テニス部繋がりか。ってか、部活動の時まで私の話題出してるんかいな…。白石のベッタリ具合に、流石の私も軽く引いたりして。ナイスバディさんは相変わらずにこにこと笑いながら私ん事見とって、ほんま、なんちゅーか、白石といいこの子といい、テニス部の美人率の高さに驚くわ。これで全国レベルの強豪なんやから神様って人に二物を与えるよなあ。


「ふふ、白石が惚れるだけあってやっぱり美人やね、"名前ちゃん"」

「は?どの口がそんな事言うてるん?つか"名前ちゃん"ってキモいし。苗字でええわ」

「じゃー名前ち呼ばして貰うたい。うちは千歳千里。千里ち呼んで欲しかー」

「ハイハイ千歳な。つか、なんで名前やねん。馴れ馴れしいから苗字で呼べや言うたん気付かんかった?」

「えー、気付かんかったっちゃー」

悪びれもせず笑う千歳とやらは、どう考えても確信犯や。解りきっとったけど突っ込んだところでのらくらとかわされそうやったから黙殺する事にした。ってか今更やけど美人て。お前らテニス部員が言うかっちゅー話やで。呆れ返って物も言えんとはまさにこのことで、どうやら世辞の類ではないらしい千歳の言葉に私は呆れるしかなかった。


「…白石ば、名前んこつ、ほんなごと好いとーね」

「ごめん、聞き取れん」

「白石って、名前のこと、本当に好きデスヨネ」

千歳の下手くそな標準語には思わず口元が緩みそうになったけど、残念ながら笑えへん。小さく溜息ついて、グラウンドに背を向ける。横目で見上げるように千歳の顔を盗み見たら千歳はグラウンドに視線を落としたままで、耳に光るピアスがキラリと眩しかった。鉄柵にもたれ掛かって、そのままずるずると座り込む。あんまり綺麗な柵やあらへんから、もしかしたら私の背中には2本くらい、汚れた筋がついてるかもしれんなあ。白石に見付かったら何処に行ってたかバレるかも。あの子頭ええし。


「アホか、白石も私も女や」

「関係なか。女同士でも好いとーは好いとーやろ」

「でも白石のは間違いや」

嗚呼、もう何回この言葉繰り返したやろ。白石には散々言うてるし、一氏とか金色にだって何度も言うて来た。誰が何と言おうと間違いは間違い。白石の好きは本気の好きかも知れんけど、それでもやっぱり好きになる事自体が間違いってるって。そう、何度も言うて来た。目の前の千歳にも、間違いやと判を押すみたいに繰り返す。


「うちはね、」

「うん?」

「好いとー気持ちんこつ、間違いち言われたら悲しか。ばってん、好きになったもんはしょんないやろ?っていうか、勿体なかよ、名前」

「………………」

勿体ないって何が。
見上げると、逆光になってよく見えへん千歳の顔はやっぱり笑ってるみたいで、おもむろに指さした先には白石が居て、つられるようにそっちに視線を向けたら、偶然、ほんまに偶然やけど。

こっち見上げた白石と目ぇ合った。


「白石は、ほんなごとむぞらしかよ?」



「…アホ、何言うてるんか全然解らんっちゅーねん」


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