所詮は吊橋効果の域を出ない


―――好きです。


頭の中で何回反芻してみてもその言葉が別の意味を持つことはなくて、お人形さんみたいな綺麗な顔と入り混じってぐるぐる回って腹のあたりに落っこちる。


(まさか人生初の告白が女の子相手やとは思わんかったわ)

しかもあの白石さんから。


見た目ええし頭もええし運動できて全国まで行った女テニの部長やしモテるし、私みたいな他人にあんまし興味ない地味女でも知っとるくらいの有名人。だからどないやねんっちゅー話やけど、とにかくそんな白石さんから告白されるなんて名誉を授かることになろうとは、人生わかったもんとちゃうな。あんな綺麗な顔して好きなんて言われたら男はみなイチコロやろ、私でもくらっときたわ。


(まあ、勘違いやろけどな)

サボろ思うてうろついてた校舎裏でたまたま襲われかけてる白石さん見付けて、その相手の男がこの前喧嘩になりかけた奴で(私は気性が荒いタチなんや)、思い出したら腹立つしお前みたいな奴が怯えとる女の子無理矢理犯ろうとするとかホンマ男としてどないやねん思うて、…っていうかそんな状況に行き会ったら私怨とか関係ないわな。助けるやろ、普通は。まあ、助ける言うても金的してオマケにもいっちょ蹴っ飛ばすような女はあんまりおらんやろけど。
でまあ白石さん怪我してもうてるし泣いてるし今一人にしたったらアカンやろ思うて、保健室に連れてって手当てしたって、これも普通はそうするやろ。私は当然のことや思うしあのクソ男蹴っ飛ばしたんは半分は私怨やし、やからずっとありがとうばっか繰り返されてなんか少し、申し訳なくなってもうた。

少しして白石さんも落ち着いたみたいやけど、まだ目の周り真っ赤やし気落ちしてるし放っとける状態やなかったから私はとりあえず一緒におることにした。って言うても私人と話すん苦手やし(ましてやこんなキラッキラな女の子と話せるような話題なんか持ってへん)、昔っから仏頂面であだ名が鉄仮面なんて時期もあったくらいで、もしかしたら白石さんには迷惑やったかもしれん。

それが。


「うち、名前ちゃんに惚れてまいました。好きです」

好きです。

好きです。


何がどうしてそんな結論に至ったんやっちゅー話で。私は幸せそうに笑う白石さん見詰めて硬直するしかあらへんかった。


(所詮勘違いや)

あれ、男女が一緒に吊橋渡ったら心拍数がどうので恋に落ちるっちゅーアレ。…私男やあらへんけど。
とにかくそんな感じで、窮地救ったから言うてその感謝とか安堵とかそういう気持ちが恋心にすり替わっただけの話や。絶対に勘違い。何としても断っとかな、白石さん勘違いしたまま変な方向に落っこってしまうんちゃうかと。思うんやけど。
涙の跡残ったままの顔とか、怪我した腕とか、なんかそんなん見てるうちによう言わんようになってもうて、私は…


「…もう放課後や。今日は部活出んと帰り」

その話題を避けることしか出来へんかった。

白石さんは一瞬キョトンとした後に困った顔でそやねって、ああもう。美女がそないな顔すんなや。放っとかれへんやないか。


「…家まで、送ったるわ」

「ええの?…おおきに」

勘違いに拍車かけて困るんは白石さんの方や。解っとっても、こない嬉しそうに笑われたら何も言われへん。鞄取りに行って、夕焼け空の下を二人黙ったまま歩くしかなかった。


「…………………」

「…………………」

話題ないし。
白石さんも私みたいなんと並んで歩いてたかて楽しないやろ、そろそろ勘違いに気付きや。仏頂面で鉄仮面でファーストコンタクトは男蹴っ飛ばして何も喋らんで告白はまさかのスルーやし、私みたいなんに勘違いとはいえ好きや言うたのはホンマ、人生の汚点やで。中途半端な距離感で隣歩く白石さんチラ見したら、白石さんも私の事見とったみたいでバッチリ目合ってしもた。


「…あんな、名前ちゃん」

「なん」

白石さんが口開く。私の返事は自分で聞いてて軽く引く程素っ気ない。


「好き」

「………」

「へへ、ごめん。そう言いたかっただけ。…迷惑やったら言うてな」

なんやねんこのシチュエーション。
夕焼け空の下で女の子に好きや言わせて切ない顔でごめん言わせて、なんやねん。私罪作りな男かよ。いや男ちゃうけど。立ち止まって俯く白石さんに、今度こそなんか言わな。はよこの勘違いやめさせな。華奢な肩に手を掛けたらバネ仕掛けみたいに顔跳ね上げて私のこと見詰めて、おっきい瞳には私の仏頂面が綺麗に映り込んでた。


「…ちょっと、落ち着いてからその"好き"ってゆう気持ちの意味考えといで」

私の口から出た言葉は、白石さんに向けて言うてるんか、それとも白石さんの綺麗な目に映り込んだ私自身に言うてるんか。


「どういう、意味…」

「なんやでっかい間違いがあるで」

唖然としてる白石さんの肩ぽんぽんって叩いたって、さっさと歩き出す。後ろからは戸惑い気味について来る足音が聞こえる。…って、今向かってんの白石さんの家やから前歩いて貰わな私道わからんのやけど。


「間違いって、なんのこと…?」

「それ考えるんが、宿題や」

明日、答え合わせしよか。


焦らしてはぐらかしてその場で答え教えたらんかったんは気落ちしてる白石さんへの気遣いか、はたまた私の、



(…全部勘違いやねん)


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