トリップ女とそんな世界


テニスの王子様。
週間少年ジャンプで連載されていた奇想天外テニヌ漫画。
主人公は中学一年生で、どう見ても中学生に見えない老け顔やらなんやらを撃退していく話で、



丁度4年程前に、私が熱中していた漫画。

酷い中二病をこじらせていた当時の私は、テニプリ仲間と共に手塚ゾーンを会得しようと毎日腕を奮っていたものだ。
ドライブBをしようとして派手にこけたり、羆落としをしようとして肩を脱臼したこともある。他にも、あんなことやこんなこと…

思い出すだけでも恥ずかしい黒歴史の数々に、私は握りしめたままだった説明書を投げ捨ててその場にくずおれた。


「…で、そのテニプリの世界に?私が?トリップしてきたと?しかも?あの氷帝学園に?編入?」

これはあれか、トリップ夢とかいうやつだろうか?
私は夢小説とやらには興味なかったが(むしろキャラ同士でイチャイチャしてるのを見る方が…ごにょごにょ)、同じテニプリ仲間だったあーちゃんが面白いと言って頻りに騒いでいたのを思い出す。
今は懐かしきあーちゃんによると、トリップ夢というのはトリップしてきたヒロインがテニプリのキャラクター達とフラグを立てまくる話だそうだ。


「それを?私が?実践?」

尽きない疑問に、いっそ気を失ってしまいたくなる。自称神様はとても怪しいし、現実的に考えてマンガの世界にトリップなんて有り得る訳はない。私はもう、そんな夢のような事を信じていられるような歳でもないのだ。これは全部夢で、寝て起きて、いつものように学校へ行ってバイトをして…さっさとそんな日常に戻るべきだ。


けれど……


(もし、本当にテニプリの世界に来れたんだったらさ、)



なんかそれって、楽しくない?


キャラとの恋愛フラグにはこれっぽっちも興味はなかったけれど、生リョーマとか生不二とか、ぶっちゃけすごく見てみたい。あっ私が編入するのは氷帝学園だから、見ることが出来るのは生跡部とか生忍足になるのかな。うわー…

思い浮かんだ濃いメンツに、思わず頬が引き攣る。
べつに奴らと遭遇することが決まっている訳ではないが、それでもうわー…だ。あんな金持ち学校に編入なんて考えただけで足が震える。


「………とりあえず、学校は×日から行くんでしょ?今日は×日だから…2日後か」

携帯を見て日付を確認すれば、編入の日は2日後だった。
今日からいきなり…とか、明日から…とかじゃなくて良かった。流石にそんなのは心の準備が出来ない。家の中とか近所の地理とかも把握しておきたいしね。

ひとまず、この家の事を把握しなければなるまい。私はぐるりとこの部屋を見回して、とりあえず最初に目についたクローゼットを開く。


「うわぁ…本物だ」

そこには、皺ひとつない氷帝学園の女子制服が掛けられていた。
他にも何着か服が掛けられていて、それらは全て私が元の世界で着ていたものだった。…これならば、タンスの中の服も私の物なのだろうか。
クローゼットを閉じて試しに洋服タンスの一番上を引いてみると、そこには丁寧に畳まれた私の服が仕舞われていた。が、何着か、見知らぬ服もそこには混じっている。
どうやら新品らしいから、きっとこれは神様が用意してくれたものだろう。

この部屋に関してはもう特筆することもないか。
あとは勉強机と学習道具一式、そしてふかふかのベッドがあるだけだった。


「よし、次は他の部屋だ」











他の部屋もあの部屋と同様に清潔的でピカピカで、なんとも居心地のいい所だった。


(少し可愛らしい調度品が多い気もしたけど…)

ソファの上のぬいぐるみとか、テーブルに飾られた薄いピンクの造花とか…誰が選んだのかは知らないが、少なくとも私の趣味とは合わない。


(まぁこんな綺麗な家用意してもらえたんなら別に構わないけどね)

……ダイニングテーブルに無造作に置かれていた通帳には流石に目を剥いたが。


それから、この家を探索して解ったのは私以外に人の住む気配がないということだ。
…見知らぬ他人と一つ屋根の下というのは気分悪いが、この広い一軒家で中学生(という設定)の私が一人で生活かと考えると、少し寂しい気もした。

ふと、親のことを思い出して心配になる。私がトリップしている間、現実世界ではどうなるのだろうか。もし行方不明だったりしたら心配をかける事になるなぁ…。
ツンと、鼻の奥がしょっぱくなった。



家の探索はこの辺にして、今度は近所の地理を把握すべく散歩に出かける事にする。ついでにご飯の調達。

朝起きた時のパジャマ姿のままで探索をしていたので適当なシャツとジーンズに着替えて、鏡の前で髪型チェック。遠出をする訳でもないので、ラフな格好で構わないだろうと一人納得しながらちゃちゃっと寝癖を直した。


「よしこれでオッケー…って、あれ?」

私の姿、18歳のままじゃない?


鏡にうつる自分の姿に、首を傾げた。
編入するのは氷帝学園中等部…なのに、容姿は18のまま。


「これって大丈夫なのかなぁ…」

一抹の不安は覚えたものの、変わっていないものは仕方がないのでヨシとする。


財布を持って家の鍵を持って、いざ行かん探検へ!





(なんて、大袈裟なものでもないけどね!)

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