仁王君と私の関係


仁王雅治。

テニス部員で人気者で女遊びが激しくて、きらきらの銀髪がとても眩しい人。


あれは何で染めているのだろうか。
あんな奇抜な色の割に、傷んでいないように見えるのは何故?
いつもけだるそうにしていて、たまに通りかかるB組の教室を覗けば何時だって寝ている。

夕方、お使いで出かけた時に女の子を連れているのを見た。
次の日、またお使いに出かけたら隣の女の子は変わっていた。

いい噂はあまり聞かない。
ミーハーな友達によると、「コート上の詐欺師」なんて呼ばれちゃって、どう考えても怪しい人。

近寄りたくはなかったけれど、きらきらの銀髪はよく目立つし、気付けば私の視界には大抵彼が居た。


一度、テニス部の練習を見に行こうとしたことがある。
詐欺師と呼ばれ、悪い噂の取り巻く彼がどんなテニスをするのか気になった。
コートの近くまで来たけれど、女子生徒による人垣に圧倒されてその日は断念した。

次の日も、コートの近くまでは行ったけれど結局練習は見れず終いだった。
あくる日もやっぱり人垣は厚くて、私は遠巻きにコートを一瞥して帰宅した。


それから、私の日課はコートの隣を通って帰ることになった。
随分と遠回りになるが、近道で帰ってしまうのがなんだか悔しかった。

コートに目を向けた所で見えるのは女子生徒の背中だけだと学習したので、私はもうコートに目も向けなかった。

それでも、コートの隣を通って帰る習慣は変わらなかった。



ある日、仁王君に見られたくないものを見られてしまった。
あんなひどい私を見て、仁王君はひどい奴と言った。

(あなただってひどい人のくせに)


私は仁王君に対して憤慨していたはずなのに、気付けば心の中を吐き出していた。
ビンタに失敗して握りしめられた手は私よりも少しだけ温かくて、なんだか意外だった。

あれよあれよという間に仁王君のペースに巻き込まれて、気付けば私は笑っていた。

不思議。
魔法みたい。


魔法にかけられたから、私の口は変なことを言ってしまった。
仁王君も、ポーカーフェイスに少し驚いた顔を浮かべていて、ああやってしまったと思うけれどもう遅い。


なんと私は仁王君の恋人になってしまった。


(偽物だけどね)












今、私の偽彼氏はコートで眼鏡の男の子と打ち合っている。
太陽を反射する銀髪はキラキラと綺麗で、背中越しに伝わる彼の真剣さに私はただただ圧倒されていた。


(テニスをする雅治君がこんなに格好いいなんて)

知らなかった。


フェンスにしがみついて、彼に声援を送る女の子達は、もっとずっと前から彼がこんなに格好いいことを知っていたのだ。
少し、狡いと思ってしまった。


(私がいつも通っていた帰宅路の隣には、こんな素敵な世界があったのか)

私の座っている所からは少し離れている、フェンス越しに聞こえる彼女達の声援に初めて少しだけ同感を覚えた。


暫く打ち合いを眺めていれば、やがて休憩に入り、雅治君は眼鏡の男の子と話をしていた。時折、私の方に顔が向くように見えるけれどきっとそれは勘違いだろう。

汗をかいて少し垂れ下がってしまっている銀髪は、やっぱりキラキラとしていて綺麗だ。


「君が…苗字さん?」

「!」

ぼんやりと雅治君を眺めていると、いつの間に隣にやってきたのだろうか、柔和な笑顔を浮かべる男の子が立っていた。


(綺麗な人)

確か、名前は幸村君。


「うん、苗字名前」

彼の質問に肯定すると、幸村君は知っているような顔をして「うちの仁王がお世話になっているね」と言った。


「そんなことないよ、お世話になってるのは私のほう」

なんといっても私は彼に恋愛の面白さをレクチャーしてもらっているだけなのだから。…勿論そんな事は口にしないけれど、幸村君はこのゲームのことを知っている気がした。なんとなくだけれど。


それから少しの間私と幸村君は他愛ない話をして、彼は練習に戻ると言って踵を返した。
観客席から出ようとする所で、彼が振り返る。


「あ、そうだ。最後にひとつ、質問してもいい?」

「うん、何?」



「苗字さんは、仁王の事好き?」

どういう意味だろうか。
幸村君の問い掛けの意味は解らなかったけれど、この質問には絶対に嘘を答えてはいけないと思った。





「うん、好き」



私の答えを聞いた幸村君は満足そうに笑って、またねと言った。

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