「あ!むし!」
「ほんとだぁ…なんのむしだろう?」
「むしはむしむし!」
「…りゅうじ、それおもしろくないよ?」
「むう……」
お手て繋いで仲良く歩く宙斗くんと流司くん。面白くないなんて言われた流司くんは少しぷくっと頬を膨らませたけれどまたすぐ新しい何かを見つけてはしゃぎ始めました。
「りゅうじ、はやくいかなきゃパパおなかすいちゃって元気なくなっちゃうよ?」
「そういえばそーだった!」
宙斗くんに言われてパパのことを思い出した流司くん。はっと振り向いて、公園の方は
向いていた体を元に戻しました。
「らいもんちゅーがっこーってどこにあるの?」
「ようちえんのちょっとむこうにあるやつだよー」
「わあ!ひろと、ものしりだね!」
すごいと顔を輝かせる流司くんに宙斗くんは照れたように笑います。双子の2人は何をするのもどこへ行くのもいつも一緒です。だけど宙斗くんのほうがちょっとお利口さんです。
それからも2人仲良く手を繋いで進んで行きます。いつもママやパパと幼稚園へ行く道なので足取りも軽やかです。
「あかしんごーだ」
「おっきいくるまー!」
途中の道で一番大きな横断歩道です。たくさんの車が行き交うのを見送り、信号が青へと変わります。
「みぎみてー」
「ひだりみてー」
「もういっかいみぎみて」
「ついでにもういっかいひだりもー…」
「みなくていいからおててあげてわたるの!」
「はーい!」
お調子者の流司くんの顔をくいっと前に向けて、手を上げて信号が点滅する前にわたりきった2人。
「ここまがったらよーちえんだよね!」
「うん!でもきょうはこっち!」
いつもなら曲がるはずの道を通り過ぎて、まだまだ真っ直ぐ進んで行きます。
今度は小さな、信号のない横断歩道です。近くにいたスーツを着たお兄さんと一緒に渡りました。
「あ、いなずまのマーク!」
「あそこにパパがいるんだよ」
やっと見えてきた稲妻のマークに2人は駆け出します。幼稚園とは違う、大きな門と大きな建物。空高く見上げる2人。
「はやくパパのところいかな、うわっ!」
「のわあっぅ!」
どてん、と転んだ宙斗くんにつらて、手を繋いでいた流司くんも一緒に転げてしまいました。
「ぅ…っうわあああん!」
「っ、ご、ごめん…りゅうじ、ごめんなさっ……なかないでっ…」
「うわああっん…っ」
転んだまま、泣き続ける流司くんを起こそうとする宙斗くん。ですが、泣き声で小さな声は聞こえません。宙斗くんの膝からは血がにじみ出ていて、宙斗くんの目にも涙が溜まってきました。
「ごめ、りゅう……っ、ひくっ…ぅう…」
「大丈夫か?」
そんな2人の元へ心配そうに声をかけてくれた人がいました。
今にも零れ落ちそうな涙を目に溜めた宙斗くんがそちらを見上げます。お兄さんとお姉さんが、心配そうに目を合わせるようにしゃがんでいました。
「転んだのか?」
「…ぅ、…っ」
こくりと頷いた宙斗くんをお兄さんは立たせて、服についた砂をはたいてくれました。
「あ、ありが、と…」
「どういたしまして」
「擦り剥いて痛かったな」
そばでは流司くんがお姉ちゃんに抱っこで起き上がらせてもらって、砂と涙を拭っていました。本当はお姉ちゃんはお兄ちゃんですが、宙斗くんも流司くんもお姉ちゃんだと思っているみたいです。
「君たち、お母さんかお父さんは?」
「きょ、うは…おつかいで、パパに、おべんと……」
「そうだったのか」
「とりあえず、部室に行かないか?こっちの子、そっちの子もだけど怪我の手当したほうがいいだろ?」
お姉さんの言葉にお兄さんは頷きます。流司くんはお姉さんに抱っこされていますがまだ泣いています。そんな流司くんを見た宙斗くんもまた泣きそうになってしまいました。
「そうだな。君、歩けるか?」
ゴシゴシと目を擦った宙斗くんは、こくりと頷きました。お兄さんはそんな宙斗くんの頭を撫でて、手を繋いで行きます。
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