※恋人設定

「スティーブンさん。わたしの好きなところ、三つあげて下さい」
 スティーブンさん、ところころと鈴の鳴るような軽やかさを持つナマエの声が、自分の名前を呼ぶのが好きだ。笑ったときに出来るえくぼと弓形に細められた瞳は虹彩がきらきらと煌めいていて、その顔が見たいが為に望むことは何でもしてやりたくなる。結局、一緒に居られればそれでいいという彼女の慎ましやかな願いから、俺は残業を減らすようになったのだけど――まあ一番は頬が薔薇色に色づいて、恥ずかしそうに瞼を伏せる顔だ。本人は気付いていないようだけど、キスをするときに決まってこういった初な表情を見せるから。もう慣れた筈だろう?とからかい混じりに聞けば、スティーブンさんだからですよ!とかわいい答えが返ってくるので、もっと焦らして苛めたくなる。そういうところも良い。それと、そうだなあ。俺がプレゼントしたネックレスを何度も鏡と合わせて、照れたようにでも嬉しさを隠せない姿とか、あとは夜だと意外と大胆になることとか――
「す、ストップ!!」
「うん?まだ途中なんだが」
「三つまでって言いましたよわたし!というか、キスだとか夜のとかそんな恥ずかしいこと言わなくていいですから!」
「本当のことなんだから言わなくてどうする?大体、君から始めたゲームだろ。言って置くが嘘は一つも吐いてないぞ」
「そっ…そういうことじゃなくてですね…」
 なんということだ。きっかけはテレビのバラエティー番組でやっていて、だからほんの好奇心から言ったことだったというに、思っていたよりこれは、何というか、破壊力バツグンだ。顔から火が出そう。もごもごとわたしが口を動かすと、スティーブンさんは呆れたように息を吐いた。「そんなに恥ずかしくなるぐらいなら、何で言ったんだ?」本当にその通りです。ぐうの音も出ない。
「それで、君は?」
「え?」
「ゲームなんだから当然、君もするんだろう?」
 僕だけが言わされるなんてフェアじゃないな。そうだろう?そんなことを嘯くスティーブンさんの顔は輝かんばかりの笑顔だ。何故かその表情の内側に黒いものを感じて、わたしの脳は危険だと警告をがんがんと打ち鳴らす。それに従った足は後退ろうと動くが、予知していたのかスティーブンさんの手がわたしのしっかと肩を掴むので思うように逃げられない。頭の中では警報が相変わらず鳴り響いている。そろりと顔を上げてみれば、低く囁かれる拒否権の存在しない台詞。
「さて――君は一体俺のどこが好きなんだい?」
 ああ、終わった。心中で十字を切りながら、もう絶対スティーブンさんとゲームはしないとわたしは誓った。

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