「レオ君今からお昼食べにいかない?」
 紅茶の茶葉の香りだけが漂う麗らかで穏やかな午後だというに、瞬間レオナルド・ウォッチの背筋を寒気が走った。ライブラでほぼ毎日のように見かけるその人はレオナルドにとっても上司である、スティーブン・A・スターフェイズの部下という肩書きで事務員として働いているらしい。ライブラで一番の新入りであるレオナルドは、レオ君レオ君と何かと自分に目をかけてくれるナマエの存在が嬉しいやら気恥ずかしいやらで、他のメンバーより急速に仲は縮まっていった。ナマエに誘われるがまま付き合ってヘルサレムズ・ロットの案内をしてくれたり、案内のお礼だとジャック&ロケッツでご飯をナマエに奢ったりと、その日レオナルドは充実感溢れた日を過ごしほくほくとそのまま帰宅したものの、翌日ナマエの上司であるスティーブンからの異様なまでの威圧感と止まない寒気に襲われ、まだ命は惜しいからと最近は誘いを避けるようになっていた。
「あーっと…今日は、ですね…」
「あ、ごめん…最近忙しいみたいなのに誘っちゃって…」
 嘘を吐くのがあまり得意でないレオナルドは嘘のレパートリーが少ない。しゅんと俯くナマエにレオナルドの良心は現在進行形で痛み続ける。ダラダラと背中を流れる冷や汗と、気のせいなんかじゃない冷気にちらとスティーブンがいる机へ視線を向けてみれば、スティーブンは決してこちらへ向くことなく黙々と書類に目を通していた。一見すれば普段と変わらぬが、無駄に察しの良かった所為でレオナルドの冷や汗は止まることがない。
(無言の重圧ハンパねえー!)
 いやいやいや無理だって!もうレパートリー尽きました断れないですって!第一そんなに牽制するぐらいなら自分で誘えばいいじゃないですかー!本人を目の前にして絶対言えない叫びを内心上げながら、レオナルドは翌日の地獄のような重圧を覚悟した。
「いや大丈夫です!大丈夫でした!行きましょう!」
「本当!?久々にレオ君とご飯行けて嬉しい!」
 いっそ大袈裟なまでに喜ぶナマエに比例するかのよう、どんどん冷えていく足元にレオナルドが泣きそうになったのは言うまでもない。



 すっかり常連となったジャック&ロケッツの席の一角にて、レオナルドはポテトを摘みながら素朴な疑問をぼそりと口に出す。
「そう言えば、ナマエさんっていつも僕を誘いますけど――ええと、誰か他に誘ったりしないんですか?スティーブンさんとか」
「ごめんなさい、やっぱり迷惑だった?」
「いや違うんです!そうじゃなくて――他にチェインさんとかいるじゃないですか。それに、えっと、ナマエさんってスティーブンさんのこと好きですよね?」
 野菜ジュースを飲んでいたナマエが思いっ切り噎せたのがわかり、やっぱり自分の予感は合っていたとレオナルドが確信する。レオナルドとしてはもう早いところ二人がくっついて、こっちに被害が来ないようにと願うばかりなのだ。まさかスティーブンの方もあれだけわかりやすい牽制をしておいて、無自覚なんてそんな訳ないだろう。
「…わたしってわかりやすい?」
「いや、多分気付いてるの僕だけですよ」
 勿論ここでの会話は誰にも言わないので安心してください。そう言うとナマエの顔は綻ぶように笑い「その点での心配は全くしてないから大丈夫だよ」とレオナルドと同じようにポテトを摘みううん、と唸り出す。うっかりトキメキかけたレオナルドは置いてけぼりだ。
「チェインさんは気付いたときにはふといなくなってたりするし、ザップさんには近付かないようスティーブンさんから言われてるし――それにレオ君って年も近いから自分に弟が出来たみたいで嬉しいの」
 ごめんナマエさん僕は事務所に居るだろうスティーブンにこれを聞かせて、僕は弟にしか見られてませんよアピールを今すぐしたいです。
「スティーブンさんから誘われることもあるけど――無駄にドキドキしちゃってまともに食べれなくなりそうだし。だからレオ君が一番いいっていうか――付き合わせてごめんね」
 レオナルドはうっかりトキメいた。それと同時にきっとこれからも自分に被害が被るのだと予感がして、静かに心の内で涙した。

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