髪に挿したビラカンが揺れてしゃらんと鳴らす。装飾が付いた簪を手に取りながら、彼女は唸っていた。お気に入りだった瑪瑙の簪は、客に不注意で踏まれ折られたために持っている着物に合ったものを新調しなくてはならぬかったのだ。欲を言えば、店の奥にある、鼈甲の簪が欲しかったが、流石に手を出せるような代物ではなかったため諦める他ない。逢魔が時から、ゆっくり日が沈んでいくのを一瞥して一度戻ることを選んだ彼女は、番台や女将にされる仕打ちに身を震わせ早足で店から道へ出る敷居を跨いだ。
 しゃらん、しゃらんと忙しく音は鳴り、包みが手からするりと零れ落ちる。
「あ」
 彼女が拾うより先、細長く色白の指が包みを手にとって拾い上げた主が顔を上げる。
「落とし、ましたよ」
 男に施された奇抜とも言える化粧と、随分と派手な浅黄の布地の着物が真っ先に目が入り、彼の人が背負う物から男が薬を売る行商人だということが辛うじてわかった。化粧に気を取られたが、よく見ずとも男の顔が良く整っていることがわかる。は、と我に返った彼女が慌てて一つ簪の揺れる頭を下げて礼を言うと、「いえ、いえ」男はひどくゆったりとした口調で気にしてない旨を伝えた。彼女は男の手から包みを受け取るとそれに再度頭を下げて、それから熱くなる頬を隠すように足袋を鳴らして薬売りの横を通り過ぎていく。
 薬売りは去っていく女の背をじっと見ながら、相対したときから暴れるように揺れる刀身の存在に、ふと唇を歪ませた。
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