何をも汚さない。穢れることのないオーラだと思った。眞白に淀まない神聖なオーラが彼女の辺りをやさしく包んでいて、雑踏の中で相見えた彼女のそれはゆるやかにレオナルドの髪を一撫でして、たった一寸ばかりの擦れ違いだというに心中へ確かな残滓を残した。血界の眷属の禍々しい赤とはまた違う、やわらかな暖かさを持つ光がレオナルドの歩みを止めてそれから思わず、といった様子で彼女の腕を引き止める。ほそくて頼りない。レオナルドの第一感想だ。恐ろしいことにこの先のことは全く考えていなかった為に、レオナルドは自ら引き止めた癖して口ごもるしかなくなってしまった。どう言い訳する?貴女のオーラが綺麗で気付いたらやっちゃいました?ナンパかよ!ファンタジー過ぎて逆に怪しまれるに決まってる!
「ご、ごめん!」
「いえ…あの、なにかありましたか?」
 何もないとは言えない。東洋人なのか漆のように黒い髪をさらりと揺らしながらレオナルドに問い掛けるその人に、何故かどきりと心臓が跳ねるのを感じてレオナルドは慌てて手を離す。彼女の細い手首が解放されたが居たたまれなさは依然として変わらない。理由なんてあって無いようなもの――そもそもレオナルドの眼球事情を知らない者には通じない――なのでそんな当たり前の疑問にも唸るしかない。でもナンパとは思われたくない。レオナルドの葛藤は数秒間程続いて、解決策を頭の中が探し回ったが遂にはどうしようもなくなり、そしてまた「ごめん」と繰り返すしかなかった。カンペキ不審者だ、俺。逃げ出したくなる足がじりっとコンクリートを詰る。愛想笑いを続けることも出来なくなって俯きがちになるレオナルドの耳を、聞き触りのよい声が通り抜けていった。
「ああ。そういうこと」
「えっ?」
「貴方には見えるんでしょう?この光が」
 くすくすと往来の真ん中で唇を弓形にしならせた彼女が悪戯っぽく笑う。先程女から発せられた信じられない台詞はレオナルドの中で再生され、巻き戻し、何度となく再生を繰り返す。
「…え!?」
「神々の義眼保有者に出逢えるなんて、偶には外に出てみるものね」
 レオナルドが状況を理解した頃には既に遅かった。戦たレオナルドの踵が一歩後退するより先に女から手が伸ばされる。まるでさっきレオナルドがしたように、けれどもそれよりもっと力強く。レオナルドのまなこが彼女の存在を映し、瞼は強制的に降ろされた。
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