※ギャングスタ六巻ネタバレ注意

「デリコ、少し休みましょう?顔色が良くないよ」
 ホットココア片手に病院の階段に腰掛けてうなだれるデリコを見つけて、その隣にそっと座った。借りたコップからミルクの混ざった甘い匂いが漂ってくる。疲れたときは甘いものがいいのよ、と声をかけるがデリコはそれを受け取ったまま口をつけようとしなかった。
「わたし、何も聞かないわ」
 顔を伏せたままのデリコを横目に、わたしはココアを一口啜ると、ねっとりとした甘ったるさが舌をなめつくす。それを嚥下させてわたしはもう一度口を開いた。
「エリカのことも、ヤンのことも、貴方の整理がつくまで何も聞かない。…ヤンがどうして重傷負ったのかは知らないけど、きっと助かるわ。だってテオ先生がいるもの」
 わたしはモンロー組でもどこの組織に属してる訳でもないただの部外者で、でもデリコがいるからわたしはここにいる。孤児院の頃からの付き合いだから、組織にいなくてもモンロー組の人たちとは仲が良かった。酒屋を経営してからは懇意にしてもらっていた。だから何故、こんな風になってるのか正直知りたいと思う。でもこの状態のデリコを見て傷口を抉るような真似をする程わたしは馬鹿じゃない。
「覚えておいて、わたしの場所はデリコの隣にあるの」
 そのままコップを持たない方の手でデリコの左手をきゅっと握る。滑った血がわたしの手にも纏わりつくけれど、繋いだ手はとても暖かく感じた。
「…僕の手は、汚いよ」
「そう?わたしにとって、汚いか綺麗かは重要じゃないわ。デリコの手はいつだって愛しいもの」
 僅かに顔を上げたデリコと視線を合わせて柔らかく微笑む。デリコの手から熱が伝わり、絡まるわたしの手に力が込められる。
「ごめん」
 もう少しだけ、このままでいさせて。消え入る声で呟いたデリコの隣に何も言わず寄り添う。ココアはとっくに冷め切っていたし階段上から差し込む風も冷たいけど、二人寄せ合う時間に寒さはなかった。
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