自室から船へテレポートでもしたのかと思いきや、わたしが考えているより状況は複雑且つ突飛だった。どうやらここは東京でなく京らしい。京って京都だよね、随分時代錯誤な言い方するなあと思っていれば次に耳に飛び込んだ言葉にわたしは目玉ポーン状態になった。
「ここら一帯は天人や攘夷浪士が目を光らせている。どうやって此処に忍び込んだ」
 無造作に抜いた立派な太刀をわたしの首に突き付けて問うが、その言葉に疑問符はなく男の目には答えなければ殺す、というニュアンスを含めた冷たい光が迸っている。さっきまで威勢良く吠えていた口は閉ざさるを得なく、身体がちくちく痛むような感覚にこれが殺気かとぼんやり思った。
「だから言ってるじゃないですか…気づいたら此処に居たって。というか天人って何ですか?しかも攘夷浪士って百年以上前の存在なんですけど。そういうイベントですか?」
 もうこの際わたしが超能力者でもいい。そもそもテレポート使えるとして何故いきなり東京から京都へ、しかも船にいる状況になったのは本気で意味不明だが、考えるより疲労の方が買った。帰りたい、多分もう学校に行く時間は過ぎてるけど家できっとお母さんが心配してる。今突きつけられている刀だってきっと模造刀だろう。アマントやら攘夷浪士やら理解し難い言語が飛び出てきたので、このイケメンさんは頭が少々アレな人なのか、そういう幕末的なイベントの真っ最中にわたしが割り込んだだけなんだよ多分。だってそうじゃないと説明がつかない。
「天人を知らねェだと?しかも攘夷浪士を百年以上前の存在だとか、テメェは白痴か?」
「あーハイハイもうそういう設定いいですから。イベントに割り込んじゃったのは謝りますけど、帰りたいんで船から下ろして貰えます?」
 この刀が模造刀だと思い込むことで精神的に余裕が出てきた。白痴呼ばわりにちょっとイラッとしたが此処で相手と口論しても損しかないので我慢する。ああわたしってば何て大人とふざけたことを思いつつ、いい加減痛くなってきたので掴まれたままの手を外そうと自由な左手を動かした、瞬間だった。
「っあ」
 ほんのちょっと、手を動かすために左肩を揺らしたそれだけで突きつけられた刀身がわたしの頬を滑った。薄皮が剥がれ落ちそこから生暖かい血が顎へ伝っていく。痛みは本物で、じゃあこれは本当に本物の刀だと言うの。
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