何の変わり映えもしない日々に、砲声が交わるのはわたしにとって特別ではない。見知った顔のクルー達が自身を鼓舞させるため、声を上げながら敵船に突っ込んでいくのを傍目にわたしは自分の得物を取り出す。マグナムの残弾数を確認しつつ横で応戦中なシャチへ問いかける。
「シャチ!キャプテンは何処?」
「えっ?!あーっあそこ!甲板!真ん中!」
 甲板の真ん中辺りだと言いたいのだろうか、敵の短剣を二丁拳銃の銃身で挟んだシャチはそのまま体を捻らせ的確に人体の核を銃でつついた。この状態でおれに聞くなよ!!と言いたげなシャチの視線を無視して甲板へ眼を走らせると、砂塵と敵味方入り混じった乱戦状態で状況把握は困難を極めたが、あの特徴的な帽子をわたしが見落とさない訳がない。何故あんな狙われそうな位置にいるのか理解不能だったが今回ばかりはキャプテンの無駄に高い身長に感謝しつつ、敵の攻撃をいなしながらキャプテンの元へ繰り出す――筈だった。
 長銃に付いたスコープが太陽の光に反射して煌めく。照準を合わせたのはキャプテンに向けて、あの距離じゃあナイフもわたしのマグナムも届かない。キャプテンはきっと、恐らく、気づいていない。
 銃声が嘶く。
「キャプテ――」
 咄嗟だった。でも後悔はない。キャプテンの前へ飛び出したわたしの左胸に銃弾が撃ち抜かれる。一瞬、全ての音が聞こえなくなったような気がした。衝撃と共に後ろへ倒れ込もうとする体を骨ばった力強い手が支える。もう指先ひとつ動かせる力はない、意志とは裏腹に掠れた息しか出てこない。霞んでいく視界の中で、キャプテンの珍しく動揺した顔が見える。あーあ、出来ればこんな形でなく、もっと別の機会に見たかったなあ。初めて見る表情だったのに、じっくり目に焼き付くことも揶揄することも出来ない。瞼が重い。折角わたしが守った命なんですから、今度はもっと自分の身を大切にしてあげてくださいね。
「―――」
 あのとき聞こえた声があの人だというならば、これ以上に幸福な最後はないと思った。
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