割り切った関係に慣れきっていた筈のわたしが、よりにもよってその相手に恋をした。
「オイ」
 剥き出しになった刺青(トライバル)の広がる逞しくごつごつとした腹筋を撫でると、ローは不愉快そうに眉間に眉を顰める。その目は何してやがる、という訝しげなものとわたしの服を剥ぎ取ろうとする手が阻まれたことに対する不快感に苛まれていた。苛立ちの含んだ声が上から降ってくることにも厭わずに、わたしは刺青を撫でる手を止めない。改めて見ると巷で見るような小さいタトゥーより仰々しいそれはよく目立つ、だけど不思議なことにローの体格によく似合っていた。
「こういう刺青だったんだね、今までよく見えなかったからわからなかったけど」
「もう良いだろ、手を退け」
「ん」
 刺青を触るわたしの両手を、ローはいとも容易く片手で掴みそのまま上半身を屈ませて噛み付くようなキスをする。わたしはいつも、この瞬間が好きだった。体を触られるより、白くて何もかも忘れられるような快感を味わうよりも、ただ唇と唇を合わせる行為だけが、わたしを特別な気分にさせてくれる。それが好きな人とのものなら、尚更。でもローはそうじゃない、今日わたしにキスしたその唇とわたしの体を抱くこの手で、わたしが知らない数多の女と関係を続けることは明白で。わたしが「好き」とか「わたしだけを見て」とか言えば忽ち終わってしまう。わたしの代わりなんて幾らでもいるのだから、ローにとって自分の欲求不満が解消されればどうでもいい女の一人や二人、去って行こうが何の支障もない。
 わかってるよ、でもそれでも。
「ん…っあ」
「…は」
 荒い息遣いと色っぽい顔がわたしに迫る。嬌声を堪える声は聞こえるのに、キスもそれ以上もするのに、彼はわたしの名前だけは口にしなかった。
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