ぴちゃっ。剥き出しの刀身からどす黒い、誰のものかも知らない血が滴り落ちる。死んでるのか、生きてるのか、正常な判断が出来なくて滅茶苦茶に突き刺した遺体を横目に見、震える手は刀を取り落とした。噎せ返る酷い匂いがわたしの鼻腔を刺激して、強烈な吐き気と共に思わずそこで酸っぱい粘膜を吐き出してしまう。殺してしまった。頭の中がそれでいっぱいになり、と同時に生きたかったから、新選組を仇なす者だったからと理由を作って必死に正当化しようとする己の醜さにまたもや吐き気が襲い掛かる。心の臓に刃を突き立てる瞬間の、生き縋る絶望に塗れた敵の目が脳裏に焼き付いて、わたしを責め立てていて、頭を打ちつけたくなった。ついに殺してしまった。一線を越えてしまった。覚悟なんてあって無いようなものだった。膝から崩れ落ちて吐き続けるわたしに、斎藤さんが気づく。日の沈んで昏い路地裏から放つ異臭に気付いたらしい彼の人は、転がる肉塊と俯くわたしを見て暫し言葉を無くしていた。目を見開いて、それから我に返ってわたしの下に駆け寄る。「殺しちゃった、生きたかったの、新選組の敵だったから」支離滅裂な言葉で言い訳を紡いで、誰かに救いを求めるよう縋るわたしに、斎藤さんは痛みを堪えた目を伏せてその身を血や胃液で汚すことも厭わずに、わたしの頭に手をさしこみ掻き抱いた。
「死にたくなかった、死にたくなかったの」
「、ああ」
 ぼろぼろと涙をこぼす目を彼の肩に押し付けて、慟哭する。力の籠もった、彼の何人も斬るその手を強く、強く握った。
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