カカシ先輩は真っ直ぐに私を見ていた。相変わらず、心の内が見えないぼんやりとした瞳で。しかし、優しさは詰まっている。私には分かる。これが、私とテンゾウを妹や弟のようにかわいがってくれた、カカシ先輩の優しさだ。



7 続・先輩


「死ぬだなんて言わないっていうのは、あれは…売り言葉に買い言葉というか」
「あら、そうだったの?オレは割と間に受けたけど」
「いつ死ぬか分からないのに、タイミングよく死ぬって宣告できますか、という意味も含んでいますけど」
「んー、まあ、そりゃそうだな」

うんうん、と頷く先輩の装いが、やけに軽いことに今気がついた。任務は終わっているとは言え、もうひとつの小隊の帰還をこんな格好で待つだろうか。忍服のベストは着ているが、ポーチは付いていない。任務から引きずりがちな緊張感も、少なすぎる気がする。そのことを問うより前に先輩が言う。

「お前たちに余計な心配かけないようにしたんだ、オレなりのやり方でさ」

はあ、と私は曖昧に頷いた。腑に落ちない。どうしたって心配はするのに、何を言っているんだこの人は。私の心の内を読めたのか、カカシ先輩はクスリと笑って「言いたいことは分かるけどな」と腕を組んだ。

「だって、オレは暗部脱退するけどお前たちは頑張れよ、なんて優しくマメな声掛けしたら、お前たち不安になるでしょ、むしろ。しかも万が一オレが死んだらそれを伏線に仕立てて、先輩は死を予知していたのかも、とか面倒くさいこと言い出すでしょ」
「めんどくさそうな顔して言わないでくれます」
「面倒くさいでしょうよ、そりゃ、かなり」

しみじみと想像してみる。とある正規の任務で、生きたまま里に帰ることのできなかった先輩。態度では示せずとも本当に尊敬した先輩の死に、さめざめと泣く私。あの先輩の一言はこの日の予言だったのかもしれないね、と隣でつぶやくテンゾウ。まるで先程先輩が描いたストーリーそのもので、私は少しおかしかった。そして少し、悲しかった。
口元でもぞもぞと微笑んだ私を見逃さず、先輩は目を細めた。それから組んでいた腕を解いて、ポケットに突っ込んだ。それは里をフラフラする先輩の、いつもの姿だ。これを見ると、私はどうしてこんなにも、安心できるのだろうか。

「死ぬかもしれないなんてのは、当然なんだ」
「………はい」
「そして死が怖いのも、当然なんだよ、多分な」

先輩も?訊いてみる。カカシ先輩はゆっくりと、そうだよ、と頷いた。カカシ先輩が自分から死を迎えに行くことは、絶対にないだろう。死が人を分かつことが、どんなにもやるせなく狂おしいか、この人は誰よりも、知っているのだ。





   ***

「さて、帰るか…じゃなくてオレはガイ班を待ってないといけないんだっけな」
「嘘なんでしょ?」
「あら、そっか、気付いてたか」
「そういう格好じゃないし、先輩はそんなに殊勝なことしません」
「ひどい言われようだな、オレも」





20140126
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