カカシ先輩のことばがなんとなくの形を保って私に残っていた。死ぬ訳じゃないからな、ということば。これから死ぬだなんて誰が言いますか。私はそう言ったのだ。死を予感するとか、運命が決められているとか、そういうものを私は信じていないから。ただ、今になって思うと、死を前もって寄り添わせる作業として、これから死ぬ、とことばにすることはあるのかもしれない。誰に寄り添わせるって、本人と、たったひとりの大切な誰かに。まあ、言われてないけど。言い訳がましくことばにした。そして私は早朝とも深更ともつかないなにかの狭間で眠りについた。



3 キャベツ



目を覚ますと、昼だった。太陽の感じがまず昼らしく、次に時計が昼だった。食べるものがあったろうか。なにもなければ着替えて買いに出よう。寝起きからそんな気分になるのは珍しいことだった。
冷蔵庫にはやはりなにもなく、私は顔を洗って歯を磨いて、そこらにあった服を身につけ鏡に向かって少しだけ髪を整えて、靴を履いた。なにかの気配を感じて、ドアを開けてみた。カサ、と乾いた音がした。紙袋があった。中を見ると、大きなキャベツがひとつ、入っていた。キャベツがひとつって、どういうことだろうか。だれが?いつ?私自身とキャベツとの関わりはあまりにも薄く、私にはさっぱりだった。もっと野菜を食べろよということ?だれが?いつ?それとも剥けば剥くほど美しくなるのが理想だよということだろうか。これは深読みだろうか。あれこれ考えながら、キャベツを取り出した。紙袋の底に、白い紙切れが、キャベツの湿気ですっかりふやけて貼り付いている。丁寧に剥がすと、裏側の文字が透けて見えた。私はそれを読んで、家を飛び出した。止めはねのしっかりした少し几帳面そうな字は、暖かく私に焼き付いた。会ったらまずなんて言おう。緊張と温もりがないまぜになったような思いをいっぱいに詰めて、私はあの人に会うために走っている。






20130318
(20130402編集)


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