テンゾウと私は姉弟のように育った。だからテンゾウは私を姉さんと呼ぶ。私は彼を弟とはそりゃあ呼ばないけれど、テンゾウと口にするときは体が温もりに満ちた。私たちには親がいなかった。親のいない子どもは珍しくなかったけれど、私たちは単にうまがあった。特別な体を持ったテンゾウはいつも自分のルーツを探していた。テンゾウのものだとも両親のものだとも言い切れず、まして大蛇丸のものでは決してない彼の体は落ち着く場所を失っていた。そういう幼い彼と出逢ってから、私たちは大抵の時間を一緒に過ごした。



2 青年



姉さん。屋根に寝そべっていた私は振り向いて見たその姿に嬉しくなる。この子が私を呼ぶ時は、私がこの子を呼ぶ時だ。
「テンゾウ」
まだ15と少しのテンゾウは、私の格好を上から下まで嘗めて言う。またそんな格好で。呆れた声だ。日向ぼっこなんだからあったかいよ、薄着でもへっちゃら。溜め息と一緒に黙ったテンゾウは私の隣に腰を下ろした。よく知らない人の家の屋根の上だった。でも長屋続きのこの辺りではどの屋根が誰の屋根なのかなんてあまり関係はない。
「ちょうど会いに行こうと思ってた」
「嘘。すっかり寝入ってたじゃないか姉さん」
「まあね、でも待っていても来る気がしたし」
「話がめちゃくちゃだ…」
今日から暗部入りする彼は、早速の任務を控えていた。そして先輩との作戦計画やら目を通しておくべき資料に散々追われて目の下に隈をつくっている。
彼がどうして突然、暗部に入りたいなどと言い出したのか。私はテンゾウの横顔を見つめる。それでもよく分からなかった。私は彼を傍においておきたかった。彼がどうしているのか、わからないまま不安でいたくはなかった。そして何より私が、彼が傍にいることの安心を食べて生きていた。同じ暗部の隊員同士なら益々それは叶わない。任務は入れ違いの連続だった。
「あーあ隈つくって。初日から寝不足なんて笑いものだよ」
「うん…でも火影様直轄の部隊に入れてもらえたんだから、頑張らないと」
真剣な顔で言うテンゾウの頭を撫でてやった。恥ずかしそうに唇を歪めて、ちょっとやめてくださいよ、なんて言うテンゾウは、すっかり青年の顔をしていた。私は彼の、精悍で気持ちのよい表情がとても好きだった。
気をつけるのよ、無茶をしないように。私は言った。命を試すような真似はしない、約束しなさい。
「はい、先輩」
テンゾウはおおらかに笑った 。年よりもよっぽど大人びた、しかし可愛げのある自信と迷いと私への誓いが満ちていた。先輩はやめて、そんなガラじゃないから。そうかな。そうなの。
「姉さんは次の任務はいつですか」
「あなたが行ってからすぐ、明日」
「こんなところにいていいんですか」
「いいのよ」
白銀の髪の彼と組む予定だ。当日のあの人の作戦に従えば間違いはない。心から尊敬する先輩だった。憧れとも似ていた。それでも恋には結局ならなかった。
「………姉さんも、どうか無事で」
まだ子どもの面影を残して私をしっかりと見据えたテンゾウが言う。その瞳を私は今でもよく覚えている。私しか見ていなかった。私にはそれが分かった。忘れるまいとしがみついたのは私だ。それはまるでなにも忘れたくない温かい恋の一瞬に似ていた。






20130314
(20130402編集)

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