新学期、委員会の始まりは最悪だった。どうして私が委員長になったのかなど今はもうどうでもいいけれど、信頼にしろ押し付けにしろ、結局面倒で億劫だった。浮き足立つ心もどこへやら。長引いたミーティングの末解放されたとばかりにそそくさと席を立ったメンバーに、一人取り残された。小さな溜め息と共に部屋を出た。
(デイダラいま家かなあ)
付き合い始めたばかりの彼を想う。どうすれば彼氏でどうすれば彼女かの境界線など、私たちは殆ど知らなかった。それでもそうなることを選んだ。外は膜をかけたように薄暗かった。委員会ミーティングが始まったのは、まだ充分に明るい頃だった。
教室が見えてくると、なにか違和感があった。部活動もとうに終わっているし、居残りにしても遅すぎるというのに、教室の電灯が廊下まで漏れている。消し忘れだろうか。教室の後ろ側のドアを開けた。すると、窓際後ろから二番目の机に見慣れた頭が伏せている。電灯は、窓側の半分だけ煌々と明るかった。なにを遠慮したのか、遠慮ではなく必要最低限でよかったのか、それはどうやら彼が選んで点けた明かりのようだった。
「デイダラ」
名前を呼ぶと、もっそりと動いた。背中に散らばっていた髪の毛がはらはらと落ちていく。瞼を半分だけ被せた両目がとても好きだと思った。
「なにその顔、寝てたの」
「悪ィか、うん」
私窓際に歩いた。私たちの席は前後だった。私が前で、デイダラが後ろ。ただ例えそれでなくても私はデイダラのところへ歩いただろう。今何時、と訊かれたので時計に目をやる。私が答えるより前に、げっ7時半てどんだけ委員会長ェんだよ、真面目か、うん。大真面目よ、と答えると、ふうん、とそれきりだった。
寝起きのデイダラはぼんやりと携帯をいじっている。笑うと歪みなく弧を描く彼の唇がぴしりと、しかし柔らかくしまっている。彼がいま傍にいることが私を包んでいる。私は空を見た。もう日は沈んでしまったけれど、光り出した星々が溜め息の出るほど綺麗だった。大きな、単純な思考のいくつかが私を支配していた。帰るか、とデイダラが言う。そそくさと鞄を引っさげて教室を出て行ってしまった。しかし出た瞬間、ダンと足を踏み替えると半身を捩って教室の電灯を消した。そういうところマメなのね、伝える間もなく早足で歩くデイダラを追い掛けた。
「ねえデイダラ」
「なんだよ」
「待っててくれたの、私の委員会終わるの」
私より少しだけ背の高いデイダラは、目尻の涼しい男で、丁度私から見るところの切れ長の目の雰囲気が、私はとても好きだった。今日はデイダラのその目が見えない。私とは反対の方に顔を向けてすたすたと先を言っている。それじゃ、肯定してるのとおんなじじゃないの。私はむず痒かった。デイダラの思いと、私の飛び上がるような嬉しさと温もりとデイダラへの思いと、それを私たちはすでに共有してあるのだということ。私が嬉しいことを、デイダラは知っている。デイダラが私を待っていたことを、私は知っているのだ。
「デイダラ、キスしたい」
「………あ?なんだって」
「いま、キスしたい、デイダラと」
「なななな」
「だめ?いい?」
私はデイダラの返事を待たずに、彼の右手を握って背伸びをした。初めて触れたその唇が、ふるりと震えた。






エゴイスティックな口づけ
20130421
題:不在証明





back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -