やっぱり好きですと呟いてじっとする後輩を見ている。時折震える細い肩や白い首筋がいちいちオレに訴えてくるのだ。飾り気のない肌や髪ももっと近くに置きたい。そうやって触れたくなる欲を抑えながら何度目になるか分からない言葉を彼女に伝える。「オレみたいにいつ死ぬかわからない男より、もう少し傍にいてくれるやつを選びな」意図して冷ややかに投げるように。それでも彼女は言うのだ。いつ死ぬか分からないのはどの世界で生きたって同じです。彼女が泣いたところを見たことはない。いつ泣くのか、どうしたら泣くのか、追ってみたくなる。殊勝なこと言うね。いつだったか皮肉半分で言ったオレからも彼女は逃げなかった。
「ひとつ訊いていい」
「は、はい」
「どうしてオレなの」
「…え」
「なにかわけがあるのかと思って」
「人を好きになるのに理由がいりますか」
「…いらないか」
「いりません」
この子は本当に頑固で、ただでさえオレの周りには頑固な奴らが多い方だったはずなのにそれを上回る頑固さで、文字通り引くことを知らない。オレが引けば引くほどそれを埋めるように進んでくる。かと言って何かの拍子でオレが押したとて、てこでも動かないだろう。泣かない頑固もの。なんて可愛くないのだろうか。世間だったらまず敬遠されるタイプだな。
「オレさ、しつこいの好きじゃないんだ」
「…すみません」
「でも泣かない女は嫌いじゃない」
「は」
「可愛くない女もまあいける」
私は頑固で泣かない可愛くない女ってことでしょうか。私どうすればいいんですか。じっとしたまま下からオレを覗き込むように言う。そういうことになるね。でも今そこじゃないよね。頑固で突っ走る奴は論点ずれてるって相場は決まってるのだろうか。でもまあ今のオレも相当ずれてる。それでもいいかなんて確かに思ってるのだ。絶望の準備ばかりに慣れていたけれど、希望の練習をするのも悪くはないかもしれないなんて。自分の狭い世界に向けてそんな風に贅沢を望むのもこいつとならいいか、とか。
「そういうことだから、じゃ、まあよろしく」
「え?」
「とりあえずお互い同じ気持ちってことでいいよね」
「え?なにがどうなってそこに?」
要するにオレもずれてみようかなって思ったんだよ。絶望にはもう飽きた。それだけだ。 じゃあオレ明日から一週間任務だから。え、あ、はい。早速会えないの嫌じゃない。……はい。だからオレに希望をちょうだいよ。希望。うん、今からうちにおいで、オレと一緒にいてよ。





20130302
(20130402編集)
題:不在証明










back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -