「シカマル、こっち見て」
「あーもーなんつーかお前…うるせえよ、ほっとけよ」
「ほっとけるわけあるかアホ」
「いてっ」
私から顔を背けて芝生に座るシカマルの髪の毛を纏めて引っ張った。大体よおお前女が喧嘩なんか巻き込まれてんじゃねえよ、しかもオレ生まれてこのかた殴られたことなんかねーっつーの。シカマルはぶつぶつやっている。私を庇って左頬を殴られた。骨のぶつかり合う音を一番近くで聞いたのは彼だ。色々とショックだから黙ってろ、とついさっき言われた。私はシカマルに濡らしたハンカチを渡した。びちょびちょじゃねえか、と文句を垂れはしたものの、ぴったり患部にあてがった。何を考えて、シカマルが私と相手の間に体を差し入れたのか、私には彼の心を読む力は生憎ない。が、もしかしたら、を期待している。面倒そうなことには関わろうとしない彼が、私が面倒なことに巻き込まれているのを見たことで、何を思ったのか、想像している。
「ねえ、シカマル」
「んー」
「なんでもない」
「なんだそりゃ」
もしかしてさあ、私を守ってくれたの。心配をしてくれたの。私のために、駆けてきてくれたの。相変わらずそっぽを向いたままのシカマルの後頭部を見ていた。綺麗なえりあしして。髪だって器用に結っちゃって。私は冷やかすように言った。そうでもしないと、何かに飲み込まれそうだった。彼を想う心の部品が、ひとつひとつ主張を強めていたから。シカマルは、うるせえ、とひとつ言って黙った。そっとシカマルのTシャツの裾を摘まんでみる。私たちは柔らかい西日に包まれていた。このまま泣き出したいような大声で駆け出したいような光を体一杯に受けている。シカマルの気持ちは分からない。どれくらい痛かったろうか。ああ、明日提出のプリントやってない。学校に鞄忘れた。帰ったら風呂掃除やらされる。色々な物事が溢れていた。やらなければいけないことが溢れていた。そのひとつひとつに旗を立てるように、シカマルのことが全体に散りばめられていった。
「シカマル私のこと好きなの」
「………」
「嫌いなの」
「別に」
「私は好き」
「…………」
シカマルが少し顔をこちらに向けて、私を見た。膝を抱えた私は、膝頭に頭を預けて横たわった世界にシカマルを見ていた。左耳がすっきりと出ている。綺麗なかたち。私はその耳朶に触れた。生意気にピアス穴なんて開けている彼の耳朶は柔らかく、暖かかった。
「シカマルさん、耳、赤いですよ」
「………赤いですか」
「ええとっても」
「それはそれは」
ご丁寧にどうも。流れ込んだシカマルの声は私に蓄積されていく。私は自分の耳朶に手を移して、目を瞑った。瞼の裏側で何度か光が弾けた。耳朶が熱い。首も頬も、目の奥も。






赤い耳朶
20130325




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