「将棋教えてくれだァ?やだよめんどくせえ」
お前なんか、そこの、おでこと髪の毛の境目から禿げてしまえ。バカマル、ハゲマル。
「あーはいはいバカでもハゲでもどっちでもいいっつーの」
久しぶりに顔を見に来てやったというのに、このオトコはこうなのだ。じわじわとセミが鳴く森のなかで、鹿に囲まれているのを見つけた。奈良さんちの敷地には、入っていいところとダメなところがある。うんと小さな頃、入って遊んでいたら怒られた。それからは、外から眺めるだけにしている。わたしは物わかりのいい子どもだ。
「…どうした、入ってこねえのか」
鹿の頭を撫でながら、敷地のなかのシカマルが言った。
「よそ者はだめだから」
「お前まだそのこと気にしてんのか」
「入ったら爆発することにしてる」
「じゃあ今日だけ爆弾止めてやるよ、入ってきな。そのへんの草気をつけろよ」
シカマルが、すこし笑って言った。あ、やっぱり、笑ったと思ったけど、気のせいかもしれない。
シカマルも、せんせいだ。せんせいだけど、ちっともせんせいらしくない。たまに煙草をくわえて、気の抜けた顔をしている。ほかの人が怒ることを、シカマルは怒らない。変なせんせいだ。
「いいのか!」
「他の子どもには言うなよ、めんどくせーから」
シカマルが、鹿の頭にポンと手のひらを置いた。鹿はゆっくり頭を垂らして、わたしの手のところに口を持ってきた。さわってごらん、と言っているんだ、きっと。
「シカマルの鹿、やさしいな!」
「まあな」
今度は本当に、シカマルは笑った。はじめて触ったやさしい鹿のおでこは、固くてさらさらしていた。




20130729









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