魔法がとけたツンデレラ 「食満用具委員長、」 ん?と食満が後ろを振り返ると、そこにはくのたまの用具委員である名前がいた。 「どうした名前?」 「今日も今日とてお一人で委員会活動ですか?」 口端をあげて生意気っぽく笑う名前に、まあなと食満が言って返す。すると、途端に仏頂面になった名前は、ぽつぽつと言葉を紡ぎだした。 「よろしければ‥この私が手伝ってさしあげないこともやぶさかでは、ありませんよ…?」 「いいのか?くのたまの方の用具整備しなくて」 「私は食満用具委員長と違って優秀ですから、自分の仕事はもう済みました。」 「そうだな、名前は頭いいからな」 食満が笑いかけながら名前の頭を撫でてやると、名前は撫でてきた食満の手を振り払い顔を逸らす。 「何を勘違いなさっているのか知りませんが、馴れ馴れしい態度はやめていただきたいですね。私が食満用具委員長なんかと仲が良いと他人に思われたら迷惑ですので」 「そうか?まあ名前も年頃なんだからあんまり頭撫でられていい気はしないよな…悪かったな、名前」 「わ、分かればいいのです」 少し気まずそうに目を伏せる名前をよそに、食満は鋤を肩に担ぐ。 「じゃあ手伝ってもらっていいか?今日は塹壕埋めなんだ」 「仕方ありませんね、手伝ってさしあげましょう。」 鋤を担いでいた食満から一本受け取ると、何処を埋めましょうかと指示を仰ぐ。 「ありがとな。じゃあ名前はそっちの塹壕を埋めてくれ。俺はこっちの塹壕を埋めてるから、何かあったらなんでも言えよ?」 「フンッ‥了解です、食満用具委員長」 ざくざくと軽快な音をたてて塹壕を埋め始める名前を見て食満は少し微笑むと、自身も鋤を片手に塹壕を埋め始めた。 「…そういえば、なぜ食満用具委員長お一人なんですか?」 塹壕を埋める手は動かしたままに名前に問われ、んー?と生返事を返して食満は口を開く。 「確か、しんべヱと喜三太は補習で、平太は斜堂先生のお使い。作兵衛は‥聞いてないが、まあ、いつものやつだろう。」 「フンッ、流石は成果が出ないあほの一年は組ですね。あとはパシリに、大方迷子の捜索といった所ですか。もの好きなことです。」 「そうだな、しんべヱと喜三太も努力してるんだろうが、まだ成果は目に見えるほどは無いな。まあ学年が上がるうちに大丈夫になるだろう。平太もまだ一年なのにお使いなんて大変だな。作兵衛は友達思いだからな、たまにはいいだろう。」 名前の言葉は辛辣なものだが、その真意を読み取っている食満は口元に笑みを浮かべながら塹壕を埋めていく。 「食満用具委員長、こちらは埋め終わりました」 しばらくして、塹壕を埋め終わった名前が食満に話しかけた。 「ああ、俺も終わった」 ペンペンと鋤で埋めた場所を叩き、食満は顔をあげる。 「他に何かありますか?」 「いや、今日はこれで終わりだ。名前のおかげで早く終わった、ありがとな‥と、名前」 「なんですか…?」 訝しむ名前と距離を詰めて顔に手を添えた食満は、懐から取り出した手拭いでそっと名前の頬を撫でた。 「なっ、何を…!」 名前が驚きに一気に顔を赤く染めると、食満はニカッと快活に笑ってみせる。 「土、頬の所についてたぞ」 「あ、べ、別にとってくれなどと言った覚えはありません!」 「けど、」 名前を引き寄せ、食満はそっと耳元で囁く。 「せっかくの綺麗な名前の顔に土つけてたら勿体ないだろ?まあ、土ついてても可愛いけど」 そうして食満が土のついていた名前の頬に口づけをおとすと、食満の忍装束の胸元をぎゅっと握りしめて名前は赤面したまま食満の顔を見上げた。 「けませんぱ‥、ずるい…!」 知ってる。と、また耳元で囁く食満は、なかなか素直になれない彼女の扱い方を、とてもよく心得ています。 back |