「おまえ変わったね」
「え?そーかな、自分じゃ自覚ないけど?」
ふと途切れた話の後に泉はぽつりと言った。
変わった。いつと比べて?やっぱ中学かな?
「でもまあ、これでも色々あったしなあ。ちょっとは成長したってことで!」
いつまでも小学校や中学のころと同じってのも問題だし。
そんな風に言われたのも初めてじゃないよ。だから冗談交じりに笑いかけた。
「どうした泉くん。惚れ直しちゃった?」
きゃーなんてふざけて表情を伺うと何故か泉は不機嫌だった。
あれ?なんで?俺なんか泉を怒らせるようなこと言った?
目線だけ上げてコチラを見た目が睨み付けているように見えるのは、俺が上から見ているから。それだけだって思いたい。
変わったって、悪い意味で言ったのか。
「…」
ふいとまた正面に視線を戻した泉はすごくなにか言いたげに見えた。
本当は、なにか俺に当り散らしたいことがあるんだろうなあ。ということはなんとなくわかってきた。
なにかを堪えている。口に出してしまわないように我慢をしている。
どうして、遠慮なんて、らしくないじゃないか。
「泉、俺なんかまずった?」
「…いや」
覗きこむようにすると視線をそらされた。
あーわかった。きっともう、最初の一言が失敗だって思ってるんだ。「変わったね」なんて言葉も、本当は言うつもりじゃなかったんだ。
でも、俺と話していて、多分なにか耐えられなかった。ぼろりと喉奥から出てしまった。それは泉にとって失態だったということだ。
だから気まずくて視線も合わせてもらえない。
泉にそんな我慢を強いてきたのは誰だ。俺じゃあないか。悪いのは泉じゃない。
「ねえ泉、今の俺のどこが嫌なの?直せるとこなら直したいし。いいから言ってくれよ」
「い、や…そんなことないし」
困ったように泳ぐ視線。切り抜けるためだけの色のない言葉。
表情には、落胆がみて取れた。
あ。ああ。ごめん泉知ってた。俺。その顔知ってたよ。
ふと気付いた。実は泉と同級生になってからこういうことはずっとあったんだ。
今日まで決して言葉に出さなかったけれど、俺と話す度にほんの少しいらついたり、がっかりしたり。そっか、俺実は見ていて気付いてた。
積もりに積もったそれが、たまたま二人きりで帰路についた今日溢れ出てしまっただけで。
本当はずっとずっと言いたいことがあったこと、気付いていた。でも同時に泉がそれを隠そうとしていたことも、絶対に言わんとしていたことにもまた、気付いてた。
だから俺もその両方にきづいてない振りをしてたんだよ。
泉がこういう失敗をすることは滅多にない。今を逃せばもうそんな思いを抱いているという片鱗をうっかり見せてくれることも、恐らくないだろう。
泉の泳ぐ視線を見ていてだんだんと怖くなった。直すなんて、簡単に言ってみせたけど出来るのか?泉が求めてくることに応えてみせる自信なんて、ない。
そうか、泉はそれもわかっていたからずっとずっと、耐えていたのか。
だったらここで俺が問い詰めたって無意味だ。むしろ応えられないのなら、聞き出すこと自体が失礼な話だ。
どうしよう。泉が意を決して願いを口に出してきたらどうしよう。
俺はそれにどう返す?自分の裏側を言い当てられて、上手く繕うことなど出来るのか?きっと、出来ない。
「…」
気付くと俺を避けて動いていた目玉がじっとこちらを見ていた。
いつの間にか俺のほうが目を逸らしていて情けなかった。
「いいよ」
「な、なにが?」
諦めがうかんでいる。ああ、そんなこと言わせたくないのに。いいよと言われて安心している。
「悪かった」
「…なんで泉が謝んの」
泉は困った顔をして少し笑ってみせた。何かに似ていると思って、それが自分だと気付いて死にたくなった。
傷ついていいのは泉のはずだったのに。
そっか、泉が嫌だったのはこれなんだね。
でもごめん、もどれないんだ。
そんな顔なんて昔はすること無かったのにね。俺も、お前も。



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