平気だよ大丈夫だよ十分だよ満足だよっていつだって笑って笑って笑って
それ以上もう要らないよ俺も好きだよもう暖かいよってその境界線から先にはいれてくんねぇの?

白球をまっすぐ見詰めるのにその度に絶望してんの知ってる。
でも俺には投げろってさ。投げるの辞めたら許さないから許さないから嫌いになるからってそれどんな脅迫だよ。
自分にどんだけ価値があるって?自分と野球を秤に掛けろって?一番野球から近くて遠くにいるくせに。
それでももっかい投げ始めたんだから俺の負け。なあんにもいえねぇよ。

「なあ高瀬投げてよ。シンカー、次にフォーク、それからストレート、んでシンカーシンカー」
「どんだけ投げさせんだよ」

つか今日は投げたくねえよ、せっかくお洒落してんのわかんない?
誘ったら、家まで迎えに来るっつーからどこに連れてってくれんのかと思ったのに玄関開けたら部屋に一直線とか結構地味にショックだったんだけど。それでも涼しいなあってクーラー前独占して笑う浜田を見たらまあそれでもいいかなあって思ったんだよ、だって夏の下に置いておいたら浜田って終わってるみたいに見えんだもん。刺すような日差しも光る風も蝉の聲も緑の影も、ことごとく間違ってるみたいに似合わないじゃないか。
季節を殺す風を浴びて目を細めてる浜田の猫背を眺めるほうが色々マシかもなあ。だからもう今日はいいよ、家で二人でいよう、そうしよう、って今日初めて日の光を浴びる予定で奮発した革靴にばいばいした。
なのに何だって、投げろって?

「なあなあ高瀬」
「やだよ、もう浜田だって外出たくないだろ。暑いし」

そうだよ今日は浜田を仲間外れにする外になんて出るのはやめて、この部屋で出来ることを楽しんでみればいいだろ。そうでなくたって浜田が俺を見る目はいつだってまっすぐなんだから。俺がボールを持ったりしたら、そのボールが風を切ったりしたら、それはもう綺麗におまえ笑うじゃないか。
だから浜田はそんな煌く季節の下に出るよりもっと短絡的で情緒のない本能的な行為で熱くなっていればいいよ。部屋の中で俺と馬鹿みたいに求め合えばいいだろ、きっとその後に訪れる虚しさや痛みは夏の下の俺を眺めるよりは遙かに浜田に優しくしてくれるはずからさ。

「俺ね、高瀬が投げてンの好きなの」
「はいはい」

ゆっくり俺に押し倒されながら浜田が言う。
嘘だ、と思う。たぶん。
俺は浜田が好きで、だから一緒にいたいしセックスもしたい。それでいいだろ。だから浜田も俺にそれを求めてくれればいいだろ。
ごうごう音を立てて吐き出される冷風に冷やされて、汗が冷たくなったTシャツをたくし上げて皮膚の上からでもうっすらと浮かぶ肋骨にペタリと触れた。肌は冷たかった。合わせた右手も冷たかった。
だというのに見上げてくる目は熱に浮かされたようで夏のようでグラウンドの陽炎を見たようで。なあそんな目すんなよ。
おまえ俺にそんなものばかり求めるなよ。イタイことばっか求めんなよ。
俺は浜田が好きなのに優しくしても愛しても浜田は俺からイタイことばっかしかもってってくんないなんて酷ぇよ。
投げてンのが好きなんて嘘だろ。俺が投げるのがたまたま一番イタイから浜田は俺にそればっか要求して、投げなくなった俺にはもう求めるものがなくなっちゃうんだろう?
だから俺は、俺が浜田が好きなうちは投げんの辞めらんないし、何度だって浜田の要求をのらりくらりとかわし続けて、たまには投げて浜田を痛めつけるしかないわけだ。
はやく夏おわんねぇかなあ、だって桐青の夏はとっくに終わったし、他の季節ならこんなにも浜田を除け者にすることもないんじゃないかと思うわけで。ああでも夏が終わったらその分も浜田は俺に求めるんだろうか。それは嫌だなあ、面倒だし、俺はもっと浜田とは気持ちのいいことをしていたいよ。
すっかり乾いて冷えた肌を左手で愛撫しながら肩口に口元を埋めていると首に腕を回されて顔を引き上げられ甘く口付けられた。
啄ばむようなキスをして浜田は笑った。


「高瀬、これが終わったら公園いこうな」









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