しょーと | ナノ
Fly to the sky.



 

 青い空。
 燦燦ときらめく太陽。
 バックには青く深い海が広がっている。



 その鮮やかな青い機体は、眩しい広大な蒼に溶け込み真っ直ぐに空に白い線を描く。そのパイロットさながらの軽快な動きで大空を自由に飛び回る。
 コックピットには色素の薄い金糸が、太陽に近く恵を受けた大気の光粒子をめいっぱい蓄えている。

「いっくよー!」

 金髪の操縦士ファイは不敵な笑みを浮かべると、すっと息を吸い込み操縦桿を握りなおす。スピードを上げた機体は空中で旋廻をした。水を得た魚のように絶妙のスティーリングでなおもアクロバティックな回転を繰り返す。

 見上げていた黒鋼は、その機体の光沢に思わず目を細めた。

 そう、数ヶ月前までは自分は確かにあそこにいた。そして悠々と、自在に空を駆けていたのだ。――彼と、機体を並べて。


 だが、忘れもしないあの日のこと。
 突如空中でコントロールを失った仲間の機体がファイの機体に向かって突っ込んでいった。死角となっていたその接近に、ファイは一瞬の対処が遅れた。目を見開いて、ただ、迫り来る激突の瞬間を待つしかなかった。しかしその間に黒い機体が入り込み、暴走機の行く手を阻んだのだ。
 
 青い機体を庇って翼に衝突し、二機は墜落した。
 
 暴走機の操縦士は既に脱出しており、黒い機体のパイロットであった黒鋼も全身に傷を負ったものの、奇跡的に一命を取り留めた。
 まさに九死に一生を得たといえる。

 
 その後、黒鋼が目を覚ましてから。暮れゆく陽の紅に染まる病室のベッドの上で、お互いに秘めてきた想いを打ち明けあった。
 涙を滲ませるファイが黒鋼の手を取り、指を繋いだ。

『約束するから。黒たんの分まで飛ぶ。飛べなくなるまでオレが、飛ぶ』

 その時傷だらけの黒鋼は一言だけ言った。

――わかった、と。



 それからの二人の約束だ。
 ファイが、二人分の夢を背負って飛ぶ。そして黒鋼が地上でファイの飛行を支える。


 飛べなくなった黒鋼が、航空整備士として現場に復帰したのは、事故からそう遠くはない未来のことだった。

 ファイの、大切な人間の命を、自分の腕が預かっている。
 これからもずっと。


 やがて彼の機体はタッチアンドゴーを繰り返し、最期に周回飛行し、その演習を終えた。

「黒様ー。たっだいまー!」


 着陸したコックピットから、その操縦士が金髪を覗かせる。
 陽の光を全身に浴びて愛しい人の待つ地へと降り立つ。大きく振る両の腕を、空に掲げるように広げてから駆け始める痩身。



ほら。

輝く金髪の彼が
快心の笑みを浮かべて
今日も、この腕に飛び込んでくる。



***


前サイトからの再録
もう少し広げて書くと面白そうだと思ったので持ってきておきます


 



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