しょーと | ナノ
secret game



  


いつもは生徒たちの醸す騒音に満ち溢れている教室。けれど今は、静寂の中に二人だけ。自分たちの息遣いばかりが大きく聴こえる。知らなかった、賑やかな処ほど訪れる闇は、深いということ。アイデンティティをしっかりと保持していなければ今にも吸い込まれてしまいそうな不可思議なそれが、一帯に滞っている。人気のない長い廊下は何処までも静かで、空気は冷たい。校舎と云うものは、時間帯が違えばこうも無機質な一面を見せるものだったらしい。



いつもは互いに余裕の表情から始めるその行為も。本心を言えば、いつ巡回の警備員が来るか、教師が来るか、気が気ではない。
何故ならば。見つかれば停学どころの話ではない、サイアク両親は離婚。そんな結末すらもあり得るからだ。

こんなリスクと快楽を追い求めるばかりの遊びに先行したのはどちらからだったか。頻繁に放課後人目を忍んで行われる性交は。平穏な日々に飽いて刺激を求めて止まない彼らにとっては、普通の生活を送っているだけでは得られない、たまらない緊張感があった。

今のところ全戦全勝。誰ぞに見つかったこともない。謂わば、これは禁断のゲーム。

無造作に解かれたクラレットのタイは、暗がりのせいで黒みを帯びる。僅かな光ばかりを反射する白いシャツに―― さらには肌蹴てそれからはみ出す人間の柔らかさを持つ弟の白い肌に、 …――眩暈が、しそうだ。

「コーフンするねー。おにい、ちゃ…ッ」

艶のある表情でにんまりと笑いかけてくる彼の、制服のブレザーとシャツの釦は、とっくに黒鋼によって解放されていて。解かれ垂れ下がったタイはその二つに、彩りを添えていた。

二人の関係は義兄弟、だった。血の繋がりは無い。学年も同じ。黒鋼が兄だと言うのも、数ヶ月先に生まれたという、たったそれだけの話。
一年前のある日、強く再婚を勧められた父が、その女性を家に連れてきた。そうして共に連れられて来たのが、母に似た容姿を持つ金髪碧眼、制服姿のファイだった。何に対しても興味の薄そうな表情で、うっすらと曖昧に笑うファイに、母となる女性は話しかけた。『ファイ、お兄さんになる黒鋼君よ』『そっかー。これからよろしくねー、黒たん?』

目を合わせればへんにゃりと笑いかけられた。


「無駄口、叩くんじゃねえ…」

気に食わない当時のことが、鮮明に記憶に蘇った黒鋼はそれを振り払うように黙々と肌を辿る。そうして柔らか味はあるが象牙の様に無機質な色合いの肌に、おのれの華を咲かせる。背後を陣取り首筋からゆっくりと肩口、背中へ。吸い付くたびに、声を殺して官能にゆれる痩身が面白くて、押さえこんではその甘味をひたすらに貪った。手の平で小さい顔をゆるくあやす様に撫でながら、長めの前髪を留めているピンを外す。

暗闇に、野外遠くに残された部活後のライトが差し込んでくる。鬱血を残す合間に妖艶に笑む弟。垂らされた前髪の隙間から垣間見える本来蒼いであろう瞳は、暗闇でもしっかりと光を湛えている。それにぞくりと背を粟立たせられるものがあって、性急にスラックスに手を滑り込ませて奴自身を握って込んでやった。すると息を呑む気配。してやったりとにやりと笑んで、構わずゆっくり柔らかい先端を中心に揉みこんでやれば、自身は次第に芯を持ち始める。

「くぅん・・・」


やがてそれを包む布すらも邪魔になり、自身を押し付けながら、ベルトごとそいつの下肢を覆う布全てをずらす。露になる白い下半身。丹念に解して準備をする。だが何時、誰が来るか知れないこの教室で、それに余りに多くの時間を費やすことは、得策ではない。そこで肩を震わせながら男根を待ち受けるそこに、ゆっくりと猛りを挿入する。

その衝撃に木の机がガタタ、と床と擦れて鈍い音を響かせた。


「ん・・・おにぃ、ちゃんの、ぉっきぃねー・・・はぁ…」


故意にだろう、卑猥な言葉を紡ぎながら、わざと“兄”と連呼してくる。そんな血の繋がりのない弟に、苛立ちを覚えて奥深く穿つように腰を送る。これはゲームなのだ。熱くなった方の負け。そいつはそれを知らしめるように、いつもは正そうとしても巫山戯た渾名で呼ぶクセ、こんな時ばかりは兄呼ばわりしてくる。

悶えながらも必死に抑え込んでいたが耐え切れず、いよいよ甘い声が漏れ始める。捨て置く訳にいかず、竹刀蛸のささくれだった手で小さな唇を塞いだ。誰かに聞かれては不味い。それに、誰にも聞かせたくはない。支配欲のままに掌で作る僅かな空間で口を覆い隠したまま奥を突いてやれば、その中が艶めいた喘きで震えたのを感じた。

更なる官能を得ようと、口を封じているのとは逆の手の大きな掌で、そいつの根元をきつめに握り締める。するときゅっと身を竦ませ、同時に黒鋼自身を締め付ける。

「くっ・・・」

それに思わず微かに呻くと、つい今までお留守にしていた器用そうな長い指が、黒鋼の武骨な指に掛かっていた。導かれるままに外せば親指を甘噛みされ、指の間に舌を這わされる。粗野で荒くれだった手指は大した官能も感じないが、その小さく紅い舌の這うさまに、得も云えぬ疼きが下肢から襲ってきて、小さく容の好い顎を捕らえて己の方へと向けさせた。

後ろから繋がり、弟の前に刺激を与えながら、深く唇を合わせる。官能を引き出すように、敢えてゆっくりと腰を使う。無音の教室に響く、粘着質な水の音。合わせて買った、揃いのピアスが妖しく揺らめく。

絶頂の瞬間はほぼ同時だった。校内にも拘らずファイの中にどくどくと注ぐ。ファイも体重を預けていた机に向かって、自身から白濁を解き放った。

ゲームセット。

ゆっくりとファイの意識は、教室を覆うよりも深い闇に飲まれていく。意識を手放しながら弟は、信頼しきった大きな体躯へと、その身のすべてを預けたのだった―――




「どうして兄弟、なんだろうな…」




小さく呟いた声はファイには届かない。気を失った痩身を片腕に収める。持っていたスポーツタオルで意識の無い身体を拭いてやる。

いつも明るくひょうきんで、優しい振舞い。
女にもモテるらしい。
けれど兄に向かってばかりは、ちょっぴり生意気でもある弟で。

そんな彼も今は、黒鋼のなすがままだ。くぅ、と寝こけてうっすら開かれた薄く桃色の唇に、そっとくちづける。暗闇の中、弟をそっと見つめる紅の光が、闇からこぼれて滲んでいた。





後始末を終え、黒鋼は未だ目の覚めないファイを背負って帰途に着く。いつまでこの関係は続くのだろう。卒業まで?それとももっと終わりは近いのか。けれど、今問うたところでその答えは出そうもない。かと言って、やめることも出来そうにない。

『いいじゃないー、だから一緒に帰れるんだしぃー』

そんな思考など何処吹く風。へにゃんと笑う弟の、いつもの調子で冗談めかした声が、黒鋼の脳内に木魂す。


木枯らしが吹き始めた外は、冬が深まっていることを示すには余りに明快で。負ぶった弟から流れてくる金糸が、ふわりと黒鋼の頬を擽った。





  
---
inspired by the article(2010/11/06),
in`真夜中`
thank you for accepting my asking!

こちらの文は、PC黒ファイサイト『真夜中』様に問い合わせまして、掲載許可を頂いたものです。
健全(?)な女の子向けの(??)ときめきクロニクルにときめいて出来上がるのが、こんなブツですみませんん…!(ほぼ♂♂性描写の有り様だったという…)

突然の不躾なメールであったにも関わらず、即対応してくださった管理人様には、心より、感謝の気持ちを捧げます。

  

 ---