つきの魔法 | ナノ




 ぽわりと湖に向かい知世姫が手をかざしている。問題の現場へと到着した彼らは固唾を呑んで、姫を取り囲みその結果が出るのを見守っていた。
やがて光が止み、知世が振り返る。真っ直ぐな瞳で前を見据えて口を開いた。

「この湖にはつきの魔力が宿ってしまったようです」
「月の?」
「ええ。月の魔力はわたくしの術も属するものですが、昨晩の満月でその効力が一段と高まってしまったようですわね」
「では姫様のお力で元に戻せるのでは・・・?」

「それは出来ません。高まった魔力は湖の近くにあった魔の力を持つものを取りいれてしまいました。未知の力が混入してしまった今、私に制御は不可能ですわ」

今回の場合はファイさんの持つ魔の力のようです、と大きな瞳でファイの蒼眼を見据えて言う。

「ファイさん、魔法は使えますか?」

知世の言葉にファイが眼を閉じて神経を集中させる。

「・・・。無理ですねー」
「じゃあ俺達はやっぱりこのままか」

眼を開けたファイが答えを返し、結論の見えない話に黒鋼が嘆息を漏らす。

「いいえ。術の目的さえ果たすことが出来れば戻れるはずですわ」
「目的ですかー?」
「術には邪悪なものは感じられませんもの。・・・ほとんどがファイさんの力なわけですから当たり前なのですけれど」
「じゃあ消滅なんてしねえんじゃねえか?」

安易に結論付けた黒鋼に姫は首を振る。

「魔力の暴走があっての今回の結果なのです。ファイさんの意志とは関係なく、月が強大な力を取り込んで暴走させてしまった」
「わかりづれえな」
「おそらくファイさんの心のどこかに今の結果を望む何かがあったのです。意図しないほどに心の深いところで。昂ぶった魔力が、それを写しとったのですわ・・・鏡のように」

 黒鋼が目配せするとファイは皆目わからない、とばかりにゆるく首を振る。ファイ本人が分からないということは、術の発動自体が予期されていなかったということになる。それはつまり満月が、ファイ本人さえも気がついていなかった望みに応じようとしただけ。だから、最終的に二人の消滅という結果が起ころうとも、それは誰かに意図されたものではない。だから消滅する可能性も否定はできない。

「ファイさんがその願いを叶えることができれば、元に戻れるかもしれません」

 知世姫の下した結論にファイは動揺の色を隠せず、ビクリとする。自分なりに過去との決着をつけて、旅が終わって、日本国という一時の仮初めとはいえ、安住の地を得て。十分すぎるほどに満たされたと自覚のある今、自分はいったい、幼い姿に何を望むのだろう、と。更に黒鋼までもが何故それに巻き込まれてしまったのか。その理由も分からない。

 一行が解決策に途方に暮れる中、まつわる文献がないか調べてみましょうという知世の発案で城に戻ることにした。


 

mae tugi