2-C
そして経つこと小一時間。
ファイはあれでもないよーこれでもないよーと日本国の食材でもできる料理を考える。
メニューを定め、ようやく作り上げた料理を手に忍者の部屋へと向かう。「食べてくれるかな、食べてもらえなかったらどうしよう、でも風邪にはこれがやっぱり…」という期待混じりの緊張と葛藤の中、到着したファイは思わず派手に障子を開け、いつもの調子で部屋に入り込んでしまった。勢い余ってすぱーんと乱入してからしまったと思うがもう、後の祭りである。
障子が解放されると同時に、薄暗かった和室には冷たい大気を透き通って届いた光が、敷かれた掛け布団の白にぶつかって散乱する。籠っていた部屋に、すぅっと外気が滑り込んでいった。
いっぽう起こされ気ダルそうに布団から顔を出した忍者は、突然の採光に眩そうに薄く開いた紅い眼を、騒音の原因へとゆるりと向ける。
その佳人はひかりを背に負い、その一本一本の金糸はきらきらと靡いていて。
夢に出てきた天女のたおやかさ、とは異質であるものの、確かに生命の輝きを柔らかく放っている彼がいた。紅い眼に映される快濶としたその姿に、不思議と鉛のように重かった全身がすっと、軽くなる。
――ぶしっ
「あーごめんねー。今閉めるからー」
力が抜けたと同時にくしゃみをしてしまった忍者にくすくすと笑いながらもファイは障子を閉める。しかし今度はきちんと膝を突き、鍋を畳上に置いてから障子に両の手を添えた。流石に病人に対して、何とも向こう見ずな登場であったと罰が悪いのだ。忍者のつい今し方まで視ていた夢を知るところとなれば、こうした反省はなかったに違いないが。けれどそんな黒鋼の夢にファイが気が付くはずもなく。
「黒たん。具合どー?」
黒鋼の顔を覗き込み手ぬぐいを取ると、今度はひんやりとしたほっぺを額に当ててその熱を確認する。しかし冷え過ぎた頬ではよくわからなかったのか、今度は唇の横に場所を変える。
(そんなに何度計っても変わるもんでもねえだろ…)
心の内で突っ込みを入れつつも、自分を案ずるそんな彼の様子に少し可笑しくなる。
・・・ぜぃ・・・ふぅ
眠ったためか、彼の行動を正せるくらいの余裕が出てきたらしい。荒い呼吸の合間に軽く息を漏らす。
それでもやはり言葉を発するのはまだ辛い。
だから忍者は彼の問いに、なるべく手短に、完結に、明瞭に答えることにした。
「ご飯たべれるー?」
素直にこくりと頷く。
「・・・くう」
「――・・・・」
―――そんな黒鋼を見て、ファイは固まった。
動かなくなったファイに、紅い眼が早く飯を食わせろとばかりに彼の顔を怪訝そうに覗き込む。
俯いた金髪がゆらりと揺れる・・・
「・・・?」
声を出すことなく首を傾げる黒鋼。
がばっ
そんな黒鋼をファイの腕が抱き込んだ。
「!?、?、?・・???」
何しやがる?!!という忍者の叫びはやはり、声には為らず。
どうやら元魔術師の前人未踏のスイッチを押してしまったらしい。
両の腕でしっかりと頭を抱えられて、ひたすら混乱する黒鋼だった。