魔術師をアピールしよう! | ナノ
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トントン。コトコト。カチャリ。
ずずぅ。

「うん。味付けよしv」

煮物の味付けをして、我ながら上出来と満足気なファイ。
二年目にして異国の地の行事料理をここまで作りこなせるなんて、いい嫁さんになれること間違いなしだ。
太鼓判を押せると思う。

(ふー。それにしてもオセチ?だっけ?
慣れない料理だし、作るの結構手間が掛かるよね)

そう、御節料理を見栄えよく、本格的に作ろうとするとなかなか大変なのである。
人参を可愛らしく花形に象ったりといった飾りなどはファイにとってはお手のもの。
しかし例えばお赤飯に綺麗な紅を敷こうとすると、冷ます時に小豆の煮汁を一定の高さから落水させ続けなければならず割と腕を酷使することになる。
その他諸々の作業の中でなんといってもファイにとって一番の最重要課題はやはり、鯛の尾頭付きだろう。これはめでたい正月料理として欠かせないものなのであるが、何しろ生魚苦手なファイである。忍者の血を糧にしていたときは若干和らいでいたかもしれないが、その血も抜けた今となってはしっかり生モノ嫌いは復活している。

臭いを嗅いだだけでも相当なダメージなのだ。

それを肩を強張らせながらやつに相対し、包丁をぐっと握り締める。そうして虚ろな瞳と目を合わせないようにしながら正面から布巾越しにぬるりとしたその体を鷲づかみ、ジャッジャッと表面の堅い鱗を丁寧に剥がしていかなければならない。

ようやくその闘いを終えて一呼吸置き、再び魚に向き合う。

そして残る最大の難関は・・・それは中身の除去。


・・・なかみ、の除去・・・


ぷるぷると震えながらも切った腹に白い手を進入させていく。お亡くなりになったお魚さんの冷たさが肌にひんやりと沁みる。
感じた瞬間に思わずきゅっと指を腕ごと引っ込める。

(でもっオレががんばんなきゃっ…!)

粟立つ鳥肌をぐっとこらえ、眉にめいっぱいしわを寄せ、あごを上向き加減にしつつも再度チャレンジするためにふるふると手を伸ばす。
そぉ―っと腹の近くに手を持っていき、一気に済ませてしまえと今度は思いきってえいっ!と震える指を内部に突っ込んだ。

にゅるっ

  ・・・ぞわぞわぞわ、ブルリ。



(黒ッたんっ黒たん!!、、いますグ!いますグ帰ってきて・・・!)

カタコトになりつつうるうる溢れんばかりの涙目で、急遽黒鋼にSOSの電波を心の中で叫んで飛ばす。

しかし新年の城の式典準備に駆り出されている黒い忍者にその言葉が届くはずもなく。

くったり。


黒鋼が帰宅する頃にはへちょりと居間に座り込むファイの姿があった・・・。


***