the way to happy Christmas | ナノ





ドサリ。


出かける身支度を整えていたファイの耳に鈍い音が入った。二階からのおかしな物音に訝しく思い、ファイは階段に足をかける。部屋に入ると、そこにはベッドから堕ちて前かがみに膝を突くユゥイの姿があった。

「まだムリしちゃダメだよー!」

驚いたファイは声を上げてユゥイに近づく。俯いていたユゥイはファイの声に更に視線を落とす。

「ねえ?・・・ユゥイ」

無理をしようとするユゥイを窘めようと、膝を突き優しく微笑んで肩に手を掛ける。
ユゥイの肩がビクリと反応する。その反応に驚いたファイが眉を顰めるとゆっくり、おそるおそるユゥイの顔が持ち上がった。


「――――・・・」


その訴えかけるような、迷子の子供のような瞳にファイは言葉を失う。

ねえ、オレ一人を置いていくの?
いつもオレの為に生きていてくれたファイ。
醜い感情がオレの心の中に沸きあがってこようとも、それを汲み取るようにいつだって綺麗な世界だけ見ていてくれた。オレの為に。

そんな君にオレは心のどこかできっと少し嫉妬した。
けれど、君はオレの憧れだった。

―――大切な君。今までも、これからも……ずっと。

「ユゥイ?」

ユゥイの様子がどうもおかしいと感じたファイは再び声を掛ける。いつも冷静な彼の瞳に揺れる不安にファイは目を見開いた。宿るのは、冬空を閉じ込めたような深くて寂しさと悲しみを湛えた色。

「ユ・・・・・」

もう一度弟の名前を発しようとしたファイの顔に低い体勢からユゥイが近づいた。どこか何時もと違うユゥイの様子に戸惑う。そんなファイの唇にユゥイは自分の唇をそっと寄せる。

導かれるように兄の大切な部分にそれを重ね、ユゥイは堅く目を閉じる。そのまま呆然とする兄の首に手を回し、もう片方の腕でファイの腕を掴む。咄嗟にファイは掴まれていない腕をカーペットに突くけれど、二人分の体重を支えられるはずもない。

ゆっくりと二つの痩身が沈んでいく。

深く入り込んでくるユゥイの舌。平常ではあり得ないユゥイのキスに驚いたファイは僅かに身を引こうとする。そんなファイの様子を感じ取りつつも眉を寄せてきつく目を閉じ、懇願するようにユゥイは更にファイの奥深くへと侵入させていく。

弟によって蹂躙される身体の一部に、ファイは微かに吐息を漏らした。それでももっと、・・・もっと。

ファイを感じたくてユゥイは彼の上に覆いかぶさるようにその唇を貪った。

そんなユゥイにファイは抵抗することなく、されるがままにカーペットに横たわる。病み上がりのユゥイに振動を与えないように、なるべくそっと。

ユゥイはそんなファイの片手首を縫いつけ、もう片方の手で兄の顔に掛かる金髪を混ぜるように掬っては白い額や頬を撫でどこまでも深く唇を侵す。無抵抗のファイの舌を深く絡めて吸い上げる。


綺麗なファイ。
大切なファイ。

ねえ、神様がいるならお願いだ。
この一回だけ。聖なるこの日の一回だけ。


――どうか、見逃してください。


ただ一度だけ、彼にこの気持ちをぶつけることを。どうか、ゆるして。

ずっと殺し続けていた、禁じられた想いを

彼は兄に口付けながら心の中で言葉にした





君を 愛してる







mae tugi