the way to happy Christmas | ナノ



「君だから、――頼みたい。今年のクリスマスは―――…」








その翌日。クリスマスイブだった。
放課後に黒鋼とファイは街へと繰り出していた。

クリスマスを彩る音が静かな街を俄かに弾ませる。平静ならば騒音と思えるくらいの大音量も、今は人々の心にソワソワと期待を膨らませている。

そんなクリスマス気分一色の街頭で、サンタの人形がディスプレイされたショーウインドウをファイは嬉しそうに覗き込む。その金髪の後頭部を黒鋼はじっと見つめる。

その片割れの語っていた、彼の過去が脳裏に蘇る。

『それからのクリスマスは…誕生日も。オレたちは厳重な両親の管理下に置かれることになった。特にファイは、毎年のように鍵のついた部屋に軟禁された。一人きり、プレゼントも何もない。あの日ファイの手をとったのも、全てオレだったのに。――オレのせいなのに』


「―ちっ」


黒鋼は思わず舌打ちをする。
決意を込めてユゥイは黒鋼に願った。しかし別に、弟に言われたからファイにクリスマスの思い出を作ってやろうというのではない。ただこのへらへらと仮面を被った唐変木を心から破顔させてみたくなったのだ。

やがて心往くまで華やかなイブの街を堪能したらしいファイが嬉しそうに黒鋼に近づく。黒鋼は色素の薄い彼をじっと見つめていたが、距離が近づくと口を開いた。

「おい、」

―…

それから続けられた黒鋼の申し出に、ファイは頬を薄く桃色に染めて笑った。如何にも幸せそうなその麗かな花の綻びを前に、黒鋼は思う。

もう、彼らは過去になど縛られなくてもいい。少なくとも気持ちの上では。
両親の見えない束縛が今に続こうとも、彼らが自由になってはならない道理などない。たとえ今、未来が見えなくとも。
いつか必ず断ち切らせる。


黒鋼の声に出さない意志は寒空にも揺るがずに、そっと静かにその灯火を貯えていた。









mae tugi