the way to happy Christmas | ナノ





「♪〜♪♪」

下手くそな口笛。これがファイの最近のブームである。初めこそ全く音がでなかったのだが、ついこの前ようやく口笛らしい音が出始めた。ご機嫌にファイはコンコンとリズムよく軽快に包丁を動かす。もともと自炊していたのだからファイに料理の出来ない道理はなかった。冬の空気にも関わらずリビングはほぅわりとした暖色に包まれているかのようだ。空っぽだった冷蔵庫にも今ではあるべき食材がきちんと揃っている。ファイは中から下校途中に黒鋼と買い出した夕飯の食材を取り出す。

「一緒に待つ」と宣言してから、黒鋼は度々ファイの家に食事をしにくるようになっていた。掛け値なしにファイの料理は絶品だった。「試作してみたのー」と嬉しげにげんなりするほど甘いデザートを突然出してくること以外は文句のつけようがない。料理の塩梅のためでもあるが、黒鋼が訪れるのは理由があった。一人ではファイはきちんと食事を摂らないから。孤独に滅法弱いらしいそんなファイの性格を敏感に感じ取った黒鋼は自然とファイと行動を共にすることが多くなった。

最近ではファイが登校する日には、クラスで二人が絡んでいない日はない。どこか恐い顔で近づき難い雰囲気を放っていた黒鋼。決して自分からは誰にも話しかけることのなかったファイ。そんなファイが毎度のように黒鋼にちょっかいをかけ、黒鋼がむすりとしながらも一々彼に応える。クラス内ではそんな二人の変貌ぶりがちょっとした話題になっていた。

さてユゥイが目覚めてからというもの、何かと大変だろうと数日通いつめていた黒鋼であったが暫くするうちに弟の自分に対する剣呑とした表情を感じ始めた。猜疑心、とでもいうのだろうか。

確かにファイが幾ら説明を施したとしても、ユゥイにとっては黒鋼の存在は寝耳に水だ。それを気遣ってそれからは少し、黒鋼は彼らの家の敷居を跨ぐことを遠慮するようになった。めっきり訪れなくなった黒鋼にファイはちょん、と首を傾げていたが。

そんな黒鋼とユゥイが今は室内に二人だ。ファイが部屋を去って再び書物に目を落とすユゥイ。学ランを寛げて部屋の片隅に腰を下ろす黒鋼。
なんてことはないのだが、えも言えぬ気不味い空気が漂っていた。ああそうだったと、黒鋼は先程の買い物で購入していた今週のマガニャンを取り出す。
動いた空気にユゥイが反応を示した。

「もうすぐ、クリスマスだね…」
「・・・あぁ?」

突然の問いに思わず顔を上げた黒鋼はベッドの彼が窓の外を見入っている姿を認める。そこにはチラチラと白い影が舞っていた。雪か。今年初めて舞い降りる白とそれを見つめる金の淡いコントラストが紅い瞳に映る。

「…君には少し聞いてもらいたい」
「・・・」

「ファイのこと」







mae tugi