the way to happy Christmas | ナノ





放課後二人が向かったのはファイの家だった。そこにファイの両親は住んでいない。双子の弟ユゥイとファイが二人で生活しているのだが、そのユゥイもつい半月前にその意識を取り戻したばかりだ。ある転落事故がきっかけで彼は半年ほど昏睡状態が続いていた。
ユゥイが寝ていた間もファイがずっと床擦れなどを起こさないように世話していたのだが、彼は目覚めたばかりの頃は身じろぎすることすらままならなかった。しかし今では何とかベッドに上体を起こせるくらいに回復を見せている。
ファイが日課のように弱った筋肉を少しずつマッサージしたりリハビリしたりとユゥイの身体の調子を整える。ユゥイもそれに応えようと自分の身体に無理を強いることなく積極的に身体を動かそうと試みる。
そんな良い兆候を見せていた。

「お帰り。ファイ」

二人が部屋に入っていくと、目を覚まして本を読んでいたらしいユゥイが穏やかな笑みを湛える。しかし、ファイについて足を踏み入れてきた黒鋼を見た途端に明らかにピリっと空気に氷が散った。

「いらっしゃい―――『黒鋼』」
「…おう」

にっこり、と薄いけれど完璧な笑顔を造って黒鋼を迎えるユゥイに、黒鋼は小さく返事を返した。

「今日もちゃぁんとお留守番しててくれたんだねー、偉い偉い」
「ファイ…」

満面の笑顔で弟の金髪に手を添えるファイに、ユゥイは子供じゃないんだから、と溜息と共に言葉を添える。少しだけ表情を緩めたユゥイに密着してファイは言葉を続ける。

「あのねーユゥイ。今日はちょっと頑張る感じのリハビリの日だから黒たんに一緒に来てもらったのー」
「ふぅん、そうなんだ。…今日もよろしくね、『黒鋼』」

黒鋼に顔を向け薄っすらと笑みを浮かべる。口調はあくまで慇懃だが、心なしか細められた青い眼差しが冷気を帯びている。「ああ、」とそれに応じつつも弟の並々ならない威圧感に思わず大きな男は小さく冷や汗をかく。何故自分はこんなにも双子の弟に敵対視されなければならないのか。その理由はとっくに知れている。それもこれもみな、二人の間に流れるこの緊迫したこの空気を知ってか知らずかベッドの上でへらへらのほほんと成り行きを眺めている、この金髪兄のせいなのだ。

「いつも悪いね、『黒鋼』。君は全く関係ない人なのに」

笑顔を湛えつつもどこか棘を含ませた言葉で弟は謝辞を述べる。身を絡ませ合う双子が同時に黒鋼に視線を向けた。

「えー、そんなのいいんだよぅ。オレたち二人はひとつになってユゥイを助けるってここで誓い合ったんだから。ねえ?黒ぴょん」

同意を求めるファイの後ろから、ユゥイの剣呑とした表情が覗いた。

「へえー。一つに、なって、ね・・・」

ユゥイの目にかかる金髪が影を濃くしたのは見間違えではないだろう。軽く輪を描く唇とは裏腹にギロリとその眼光は鋭くなっている。そんな弟の変化を前に、兄貴はやはりのんびりと、「はぁー…あの時の黒ぽん、熱かったなぁ〜、激しかったなぁ〜v」なんて。白い手を頬に当てうっとりと蒼い目を潤ませて、いつかの想い出の夜のことを回想しているらしかった。

肌寒過ぎる。
今頃きっとこの部屋の空気は、間違いなくベッドから放たれる冷気によって氷点下を記録しているはずだ。

(てんめえ・・・、これ以上余計なこと言うんじゃねぇぇぇぇえええ…!!)

黒鋼は自分の傍らでほやほやと空気の全く読めてない金髪頭の暴走を、眼力で制止しようと強く睨みつける。しかし当然の如く黒鋼の心の声が隣の金髪に届くはずもなく。


「へぇえー」


ギクリ。

聞こえてきたネコ撫で声に、紅い眼を思わず見開く。

「そうなんだー、オレが寝ているうちに?ファイと?ココで?どんな風に?一つになったのか?今度じ――っくり教えてもらいたいな、『黒鋼』?」


3カ月前彼の眠っているその横で、彼の溺愛する兄貴を抱いた――などとは黒鋼の口から言い出せる筈がない。

背に流れる冷たい汗を感じつつも、ベッドの上にて今や絶対零度の笑みを纏っているもう一人の金髪へ、そろりと視線を滑らせてみる。相変わらず笑っていない蒼い双眸と視線がかちあった。目の合ったことを確認すると彼は更ににーっこりと極上の笑みを浮かべる。
そんなユゥイに向かって黒鋼は心中叫ばずにはいられなかった。

(目が、笑ってねえんだよ、弟・・・!)


寒空の下、窓の外をちゅんちゅんと小鳥がじゃれあいながら飛んでいった。






mae tugi