聞いてみたものの拍子抜けしてしまうようなファイの答えにしばらく黒鋼は沈黙する。
そんな空気を破って口を開いたのはやはりファイだった。
「ねー、もう行っていい?オレ眠いんだよねーヤニも切れちゃったし」
「・・・好きにしろ」
「ん。バイバイ」
黒鋼が手を離すとファイはスルリと教室を出て行った。
あのヘラヘラした調子ではどうしようもない。思わず額に手をやり溜息を零した。
しかし、と黒鋼は考える。関係のなく接点もない人間のはずなのに、何故いきなり腕を掴んだりしてしまったのだろう。
黒鋼の席は最後列である。その後ろを抜けるように通り過ぎていく痩身の異国人。その彼が立てた空気に誘われて気が付けば立ち上がっていた、としか言いようがなかった。
それはもしかするとこの数日間、空席だったファイの席に無意識に注意を向けていたせいかもしれない。
けれど、そもそもどうして学校に来てもいない彼をそんなにも意識する必要があったというのか。
黒鋼はガシガシと後頭部を掻くと、とりあえずその足で昼ご飯の調達へと繰り出したのだった。
*
「・・・驚いたなあ」
河原の土手に寝転がったファイの呟きは風に溶けていった。
まさかあんな風に自分に距離を詰めてくる人間がいるなんて。
気を付けなければいけない。迂闊に他人と関係を持って気づかれるわけにはいかないのだ。
(どうせ気まぐれだよね、大丈夫、次行く時にはもうきっと話しかけてきたりなんかしない)
そう高をくくる一方で、何か対策を練らなきゃ、と心の何処かで確かに焦っている自分がいた。
それにしても。
「なんだか、面白い人だったねえ」
話したことのない人間に、いきなりあんな聞きにくいことを言ってくるなんて。おせっかい、なんてタイプでもないだろうに。
何だかおかしくなって自然に頬の緩むファイの上を心地のよい風が掠めていく。風に揺られて河の水面がそわそわと波打つ。
しばらくは河原に流れる風に身を任せていたファイであったが、不意に起き上がるとズボンに付いた芝をパタパタと払い落とした。
そうしてやはり河原に見回りの警官なぞが巡回に来る頃には、そこにファイの姿はなかった。
mae
tugi
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