the place to stay of you | ナノ


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あの橋の下での出来事から三日が経ったころ、ファイはようやく学校へと姿を現した。

教室に入ってきた金髪の美人はいかにも緩慢な動きで窓際の自身の席へと近づく。

薄っぺらい黒い鞄を机の上に投げやると、椅子を引きずり身を投げるようにガタリと腰掛ける。そうしてそのまま窓の外に目をやり、ぼんやりとしていた。


登校している、ということは先日見かけた件に関しては、学校側にバレてはいない、ということだろう。いくら生徒に無頓着な学校とはいえ、他校の生徒から訴えられるようなことがあれば何かしらの厳罰が科せられるはずだから。

そんなことにはお構い無しに、涼しい顔をして頬杖を突いている彼はさわわと吹き込む風に金髪を緩く遊ばれている。


クラスの人間に決してなじもうとしないファイ。勉強にまるきり意欲がなく、前回の試験でも彼の成績は下から数えた方が早かった。おそらくざっと記憶を逡巡させてみるだけでも、出席日数も足りていないのではないだろうか。ようやく出た授業ではというと。

ちらりと黒鋼の視界に入った彼は、頬杖を突いたままの体勢で静かに寝息を立てていた。



午前の授業が終わりたっぷり睡眠をとったファイが伸びをして教室を出て行こうとする。鞄を持って出ようとするところをみると、今日はもう、これで下校なのだろう。

そんな彼の腕をぐいっと掴む者がある。くるりと顔を後ろへ向けてみるとそこにいたのは大柄のクラスメート。ファイより頭一個分くらいでかい。直ぐににっこりと笑顔を作る。


「何?というか、君、誰だっけ?」
「黒鋼だ」
「くろがねねー。じゃあ黒たんだ」
「何でだよッ」
「だって君なんだかカオ恐いからその方が可愛いじゃないー・・・黒ぽんにする?」
「しねえよッ」


初めて話す機会となったわけだが、まさかこんな答えが返ってくるとは思わなかった。

黒鋼という人物の見た目は恐いのである。まず非常に大柄な体格だ。自覚もある。端正な顔立ちはしているが、彼の切れ長の紅目の三白眼に脅されれば大抵の人間は蛇に睨まれた蛙のように身じろぎすら出来なくなる。
さらに腕など掴まれようものなら、それだけで何をされるのかと反射的に反応を示してしまうだろう。

黒鋼にとってはこんな反応を示してくるクラスメートなんて初めてで、驚くというよりもむしろ呆れた。


「で、なんか用?黒ぴょん」
「黒鋼だ!!・・てめえ、数日前橋の下で何してた」
「橋の下・・・?昼寝?」
「他校の奴とだ!!」
「ああ。カツアゲってやつねー」


悪びれた様子もなくあっけらかんと言い放つファイに、黒鋼は眉尻を上げる。現場を見られていたことに対して少しくらい驚いてみてもいいのではないだろうか。

そんな二人のやり取りを余所に、教室には弁当を食べ始める生徒たちの食べ物のにおいが漂い始めた。







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