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「―――驚いたな」


そんなファイを土手の上から見ていた人間がいる。いわゆるカツアゲをする異国人を目の当たりにして、黒鋼は目を見開いた。

ファイは見られていたことに気が付かないまま、その背中を見送られていた。






彼の名は、ファイ・フローライトと言った。

この見た目だけなら麗しいクラスメートは黒鋼の目から見ても少々、いや、大分変わっていた。まず、クラスメートを始め、先生や周囲にいる人間に自分から話しかけることがない。話しかけられても、へらりとした笑みを浮かべて適当にかわす。つまり、元より誰かと人間関係を築こうとする意思が感じられないのだ。

しかしあの目を惹くあの容姿のために密かにファンクラブまである。そんな風だから、不真面目な生徒が多い学校でも彼の存在はかなり特異なものであるといえた。


黒鋼はもともと周りの人間に興味を示すタイプの人間ではないから、ファイという人間を特に気に掛ける、ということはなかった。

しかしある日を境に彼の存在が目に入るようになったのである。


ある雨の日がきっかけだった。

数ヶ月前。しとしとと愚図ついた雨が降り続く、そんな日の夕方。たまたま寄り道をして歩いていた黒鋼は、道端で捨てられていた仔猫を大切そうに拾い上げるファイを見たのだ。

傘を差していたためにその表情は見えなかったが、その猫に伸ばされる手はゆっくりとしていて、少し戸惑いを含んでいるようであった。学ランが傘から滴り落ちたしずくに濡れる。

けれど結局は、冷たい雨の中長時間晒されていては死んでしまいかねないのを見かねたのだろう。とうとう連れて帰ることを決めたようであった。

ようやく小さく震える命に届いた手は、ぎこちなかったものの何とか仔猫を胸に抱いた。









そんなファイを知っているからこそ、たった今のファイの行動に黒鋼は瞠目した。

ああ、たまに聞く「動物は大事にして人間は嫌い」ってクチか、と自分なりに結論付ける。しかし彼の今の行為はあまり気持ちのよいものではなかった。

黒鋼自身、決して品行公正な学生ではなかったがそれでも彼なりの流儀は持っていて、弱いものを虐げるような行動は好ましく思わなかったからである。


「ま、俺には関係ねえがな」



そう呟くと夕焼けの始まった空に背を向けた。







mae tugi