朝の光が、絡めあわさった大きな手と白い手を柔らかく包み込み覚醒を促した。目覚める蒼。その瞳に映る初めての朝は、世界の構成要素一つずつが違って見えた。
抱き合う中で短く意識を飛ばす度に自分を取り戻したファイは、黒鋼に証を注いで欲しいと懇願した。それに応じた瞬間の、紅い瞳が忘れられない。
眩い光の差し始める中その情熱の色が覗くまで、その精悍な横顔を見つめ続けた。やがて目を覚ました彼は蒼い眼の視線に気付き、ぶっきらぼうに「謝らねえからな」と言った。その代わり後悔もしない、と。
それに応えてふんわり微笑むファイはぐいと腕を引かれ、一晩かけてひとつになった彼の素肌にもう一度抱きとめられる。冷めた肌から内に籠る体温を分かち合うように、一枚のブランケットは二人の身を包みこむ。
そうしてファイは再び、目を閉じた。
―――この人が狭い空しか見えなかったオレを外に出してくれた。
先の見えない孤独から救いあげてくれた。
これから何が見えるかわからないけれど。
それでも、この人と一緒なら。
それから2ヶ月後――
あれからやはり、ファイはユゥイとしての二重生活を送り続けていた。昼は互いの高校を順に登校し、下校してからはユゥイの身体の世話をして夜は明け方近くまで勉強する。でも、今までとは決定的に違った。
共に待ってくれる存在がいる。
あの日、黒鋼に抱えられて帰ってきたことが誰かに見られているとしたら不味いと、黒鋼は近所の一軒ずつに頭を下げて回った。彼等の両親に疑いの目を向けられぬように。選択は、来るべき時にすればよいのだから。今はまだ、時ではない。だからこのままでいいのだと。
とにかくユゥイの目覚めを二人で待った。
◇
「黒たん、しっかりぃ〜」
「てめえ重いもんばっか纏め買いしてんじゃねえぞ…」
ネコ缶やら牛乳やらの袋を両手に抱えながら、いかにも恨めしそうに黒鋼が軽やかに先人を切る金髪を見やる。へにゃへにゃと笑いながら、ファイが玄関口の前に到着したときだった。
ぱちん
ファイの中で何かが弾けた。扉の鍵を忙しなく開けてぱたぱたと中に入っていった。黒鋼はそんな彼の様子にまさかと予感しながらも荷物を玄関に置くとファイを追いかけて階段を駆け上がる。
部屋は白い光で満たされていた。
そう、第一印象は
外光をよく取り入れる家だと思ったんだ。
そんならしくないことを思いながら、黒鋼は先に入ってベッドの脇に膝まづく薄い肩を見やる。
全身が微かに震えているのが解る。
どちらの結果であっても、ファイにとっては解放の時。
小さな終わりであって、小さな始まりの時。
しかし黒鋼には確信があった。
だってこんなにも。この二人は違う蒼に包まれている。
黒鋼がファイの肩からベッドの上の彼を覗く。
綺麗な青い双眸がゆっくりと開く。その視線は移される。
まずはファイ。それから黒鋼へと。
そうして全てを見透かしたような穏やかな笑みを湛えて、彼は空気を透く。
その息吹に生ある者しか出しえない柔らかな響きを含んで。
「おはよう、ファイ」
――― 世界が…輝き始める。
End.
mae
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