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道を行く奇妙な二人に、好奇の視線が向けられる。しかし今の黒鋼には、大したことではなかった。
今は彼を、安全な場所で休ませることが出来さえすればいい。
そして、ユゥイに会わなくてはいけなかった。
全ての鍵は、彼が握っているに違いない。
なるべく振動を与えないように気遣いながら歩く。背中の彼は、死んだように気を失っている。ピクリとも動かず、軽すぎる彼。黒鋼は複雑な面持ちでその蒼い顔を見やる。
――本当に同年齢の男であるのか。おそらくきちんとした食事もろくに摂っていないのだろう。全身の力が抜けても重みを感じさせない彼の体躯に黒鋼は唇を噛み締めた。
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やがて高級住宅地へと入り一度訪れたことのあるその家の門に到着する。
その頃には既に、日は少し傾きかけていた。門の明かりはやはり点いてはいない。
先日訪れた時も家の中は暗く、人の居る気配は感じられなかった。おそらく、彼の両親はあまり家にはいつかないタイプなのだろうと黒鋼は踏んでいた。ただ、もしかすると実際の「ユゥイ」は一緒に住んではいないかもしれない。しかし今は、先程のファイの台詞からこの家の中にいることは間違いないだろう、という考えていた。
黒鋼はそっとファイのポケットを探り鍵を手に取る。そして躊躇うことなく玄関の扉を開け、ファイを担いで中に入る。天井の高く、白を基調としているらしいその空間は、昼間であればさぞかし明るく外光を取り入れるのだろう。
しかし静まり返った今の空気は重い。
誰の気配もない。
とにかく気の逸る黒鋼は、電気のスイッチも探らずに薄暗い廊下を歩く。真っ暗なリビングの横を通り過ぎ、階段を見つけると上り始める。
階段を上る揺れに、ピクリと白い指先が動いた。
「な、…んだ……」
複数あったもののうち、少しドアの開いていた部屋へと入る。広めの薄暗い部屋に足を踏み入れた黒鋼は、中を見てその光景に立ち尽くした。
まず目に入ってきたのはシンプルではあるが豪奢ともいえなくはない造りの内装。そして窓際のほぼ中央に据えられた大きなベッド。側には金属棒が冷たい銀を放っている。それに吊るされているのは…点滴器具だろう。
黒鋼はファイを担いだまま、ゆっくりとした足取りでベッドに近づく。その向かう先に沈んでいたのは。
金髪の、もう1人の彼だった。
死んだように固く目を閉じ、白すぎる顔はまるで造り物のよう。それでも淡い発色を浮かべるブロンドはやはりこいつと変わらない、と思った。
「………驚いた?」
囁くようにそっと、黒鋼の首筋近くにあった彼の唇が吐息を漏らす。いつの間にか目を覚ましていた背中の彼に、黒鋼はビク、と一瞬だけ動きを止める。無音に響いたその声は、酷く世離れしているように感じた。
「ユゥイ。…黒たんだよ」
少し笑みを湛えて。
黒鋼に背負われたまま、ファイは不安定な様子で腕を持ち上げる。そして長く細い手を、ただ、ユゥイに向かって伸ばす。
いきなりの動きにあやうくバランスを崩しそうになった黒鋼は、そっとベッドの脇へとファイを降ろした。
降ろされた彼は愛しそうな、それでいて恍惚とした表情で弟の淡い光沢を撫でる。
幼い頃からずっと、そうし続けていたように。
mae
tugi
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