the place to stay of you | ナノ





黒鋼は息を切らして指し示された場所に立っていた。あれから直ぐ彼女にファイの居場所を聞き、猛虎の如き勢いで邸を飛び出し此処まで駆けてきた。

どうしてこんな、人気のない路地裏なんかにいるというのか。今更隠れて煙草を吸うこともないだろうに。

不審に思いながらも嫌な予感に心臓の鼓動が鳴り止まない。
焦燥感に身を焼きながらも探し人を見つけるべく辺りを見渡す。

更に奥か。


黒鋼が足を踏み出そうとした時、微かに人の気配が蠢くのに気が付いた。

通りの路地とは打ってかわって静か過ぎる一角。この路地裏に耳を澄ませば、衣擦れの音に荒い吐息が混じってコンクリートに反響している。

僅かに、悲鳴を噛み殺すような声らしきものも聴こえる。


――ザワ

嫌な予感が一層強まり、黒鋼はその気配の方へと走って行った。





細い身体を覆うように、男の大きな身体が被さっていた。冷えた壁に押しつけられる金髪の彼の上衣ははだけさせられ、その中には探るように手が這わされている。

「――ッ!」


男の舌が首筋を上がり金の髪をかき分け耳に侵入してくる。

カサリ‥‥くちゅ…

「ぅあ…」


聴覚を占める何とも言えない雑音に、ぞわっと居たたまれなくなり、必死に逃れようと顔を逆に反らせる。

そんなファイの嫌がる様子に加虐心を煽られ男は益々興奮する。音を立てつつ存分に耳を犯し、肩を竦めて首を縮こめたファイの顔を辿る。


カチャ、カチャ‥

そうしながらも男はファイのベルトに手を掛け、ゆっくりとした動きで外し始めた。獲物の締まった細い腰をまさぐり期待を催す。

わざとじわじわ進め、ファイの恐怖をより煽ろうとする。

お前はもう逃れられないのだと。


自分の興奮をファイの足に押しつけ、これからの行為を知らしめるように腰を揺らす。

薄笑いながら頬を滑る唾液にまみれた舌。力の入らない脚に感じる男の昂り。厭らしく腰をまさぐる手。



これ以上は壊れてしまう。

ファイの嫌悪は限界に達した。力が、入らない。一切の抵抗すらも諦め、侵してこようとする男に身を預け、目を閉じる。



もう、どうでもいい。














白い手が、地に墜ちた―――





mae tugi