*
だるさの抜けない身体を引き摺り、少しずつ、緩慢な動きでファイは帰途に向かい始めた。
いまだに、吐く息は絶え絶えで辛い。
ファイが少し呼吸を落ちつけさせようと、ふぅと体内の毒を押し出す。漸く朧気ながらも視界が開けてくるようになった頃、蒼い目の前を覆うように立ちはだかる影に気が付いた。
長身のファイよりもさらに高い身長と体躯を持つその男は、金髪を見下ろすように立った。
「………?」
突如現れた人影に、ファイはゆっくりと顔を上げる。するとそこにはいたのは全く面識のない男だった。不機嫌そのものの表情を浮かべている。
彼は無言のファイの顔をしげしげと見遣ってくる。そうして地を這うような低く威嚇を込めた声色でファイに向かって口を開いた。
「んとに、女みてえなツラしやがって。……人の女に色目使ってんじゃねえよ」
「………」
はぁとまだ少し苦しげに息を吐くファイに、男は少し怪訝そうに顔をしかめ、無遠慮に視線を向けてくる。
その視線が何とも居心地悪く、ファイは男から顔を背けるとゆっくりと足を踏み出す。
無視して去ろうとすると、学ランの肩を強く捕まれた。
「制裁だ、こっち来い……」
男の瞳は、無感情な冷たい色を燻らせていた。
*
ザッ――
襟を掴んで引き摺る様に連れられてきたファイは、さっきまで腰を下ろしていた辺りに荒々しく投げやられた。勢いよく地面を擦り、あちこち擦りむける。
身体に力が入らないファイはなすすべなくそのまま冷たい地面へと転がった。僅に身動ぎながら、思考を巡らせる。
奴の怨みになんて全く心当たりがない。
きっといつもの逆恨みだろう。
どちらにしろ今の状態ではどうせ逃げられない。
ならばさっさと終わってしまえばいい。
ファイはゆっくりと上体を起こして男を睨んだ。
それに対して男はにやりと軽薄で下卑た笑いを浮かべている。手に入れた玩具はどうやら今、思うように動けないらしく抵抗という抵抗をしてこない。久しぶりに得た不可抗力な玩具を目の前に、どう破壊してやろうかと暫し思案する。
綺麗な顔を、見るも無惨なくらいに壊してやろうか。
それとも二度と立てないように四肢をへし折ってやろうか―――
男は、見遣ってくる諦めたような力ない蒼と視線があった。合った途端に見たくないとばかりに逸らされる。
それにしても綺麗な瞳。真意を掴ませないほど深くて魅せる蒼だった。
息を吐き金糸を微かに乱して威嚇をこめて見据えてきた美しい蒼に、ぞくりと何か、男を粟立たせるものがあった。
――こちらに向かせたい。
そして、己の色に染めたい。
どろりと薄汚れた独占欲が男の中を支配した。
青ざめた顔がよく見えるように、もともと着崩して緩くしかとまっていない学ランの襟を掴んで顔を近づける。
するとちらりと服の奥に見えるのは、透けるように白い肌。
それに吸い込まれるように暫く呆けた表情で視線を滑らせていた男は、あることを思いついた。再び唇に深く弧を浮かべ、ますます厭らしく表情を歪めた。
「――仕置きなんだからな。二度と人の女たぶらかせねえように…」
武骨に荒くれだった大きな掌で淡く流れる金髪をがっと掴むと、痛みにファイが顔をしかめる。
「男のプライドずたずたにしてやるよ」
mae
tugi
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